僕と花宮さん

入江弥彦

僕だけが知っている

 僕は知っている。


 クラスで、学年で、この高校で、僕だけが知っている。


 絵の具のついた親指をグッと口に押し込むと、生暖かい舌が形を確かめるようにまとわりついてくる。背筋をぞわぞわとしたものが走り抜け、思わず唾を飲んだ。二度、三度と往復した舌が口から僕の指を押し出して、そっと先端にキスを落とされた。


 慣れているな、と思った。


 彼女にまたがっているのは僕で、優位に立っているのも僕なはずなのに、いつまで経ってもろくに目を合わせられない。僕が固まっていると、彼女はちゅぱちゅぱと指先で遊び始める。


 ずいぶん上手なおねだりだ。


 遊ばれていると知りながら、床に転がる青色の絵の具を乱暴に手に取った。

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