天空世界について
(天空都市群グングニル・中央島セントラル街)
ここで、俺の属する世界について、先に説明しておこう。
俺の生活する世界は、上空十万メートルにある。
『天空都市』という世界が、俺の属する世界だ。
遥か昔、地上世界の戦争や貧困、環境汚染などに嫌気がさした先祖達は、当時の最新技術で建設された浮遊島に乗って、地上界のいざこざを忘れられる上空十万メートルの世界に到達した。
当時地上界からの脱出を試みた人々は、比較的、富裕層が多かったようだ。皆で最初の浮遊島の設計・建設コストを負担し合ったくらいだから、上流階級の集まりだったんだろう。
天空へ移住した人々は、自分達が捨てた地上界を反面教師とし、計画的な人口政策や、社会福祉制度、古代ローマ帝国を理想とした政治制度を更に発展させ、新天地に豊かな社会と空間を築くことに成功した。
(※過去と決別したいが、過去を全否定するわけでもなかった先人たちの匙加減が、天空都市発展の明暗を分けたといってもいいだろう。因みに、天空都市は古代ローマ帝国こそ地上界の最もマシな国家制度であると考え、その影響を多く受けている。天空闘竜の試合会場であるコロッセウムも、その一つだ。広い円形闘技場は、天空闘竜にはもってこいだ)
さて、そんな繁栄を謳歌して数十年後。天空歴53年、移住した天空人(天空世界に住む人々をこう呼ぶ)に、大きな技術革新が訪れる。
技術といっても、要は魔法である。地上よりも過酷な環境に適応して生きる人類に、それまでの科学技術とは一線を画した魔法(※これを総称して『天空術』という)を、神は彼らに授けたのである。
天空術の範囲は多岐にわたり、ほぼすべての範囲に応用された。医療、軍事、日常生活、スポーツ……様々な分野にだ。
その中でも特に変わっていたのが、アニマ―ジュという天空術だった。
このアニマ―ジュは、いわゆる変身術である。変身術とは、知っていると思うが、人間の姿から別の生物の姿に変化できる魔法のことである。
アニマ―ジュは、飛行能力のある人間以外の生物どれか一種に、変身できる天空術なのだ。天空時にとって、自力で空を飛ぶことは憧れだったから、このアニマ―ジュという天空術が発見されたとき、多くの天空人が我先にと身につけようとした。
しかし、このアニマ―ジュ、簡単な天空術じゃない。最上級の天空術なのだ。習得するのに七・八年はかかるし、自由に使うには天空政府の発行する免許証が必要。
実際にそれを持っているのは、天空都市群全体でも一割弱だといわれてる。かなりの難関術・免許なのだ。因みに、アニマ―ジュを身につけた天空人のことを、アニマ―ガスという。彼らは、全天空人の羨望の対象なのだが、そのアニマ―ガスが行うスポーツこそが、天空都市隋一の超人気スポーツ『天空闘竜』なのだ。
天空闘竜というスポーツのルールは、おおよそ次の通りである。
①一体一でアニマ―ガス同士が決闘する
②相手を競技場の床及び場外の床に追突させれば勝利
③装着して良い鎧は体表の20%まで
④競技者以外の決闘への参加は禁止
他にも細かいルールはあるが、だいたいこれが『天空闘竜』ルールの全てである。
分かりやすくいってしまえば、コロッセウムで行われる空中戦のタイマン勝負だ。地面に墜落したら負け。いたってシンプルだと思う。
『天空闘竜』には五つのリーグがある。
下位リーグから、「アマチュア」、「セミプロ」、「ノーマルプロ」、「プレミアプロ」、そして最高峰の「インペリアル」。
この五つのリーグの中で、「ノーマルプロ」以上のリーグに属すればプロ選手。「プレミアプロリーグ」に属すれば有望選手。
そして、「インペリアルリーグ」に属すれば、最高峰のスター選手だ。氷息帝こと俺ザザ・ムーファランドも、怪我をする前はこのリーグに所属していた。
「インペリアルリーグ」に所属できるのは、たった七名の選手のみ。『天空闘竜』はランキング制度だから、最上位七位までのランカーが、このリーグに所属できることになる。俺の引退前のランクは上から二番目。もう少しで、頂点に立てるところだった。
だが、あの怪我が全てを台無しにした。舞台の説明はこれくらいにして、次は俺の現状と怪我について語ろうと思う。
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