〇〇〇も甚だしい
タマゴあたま
〇〇〇も甚だしい
僕は窓の外を眺める。
夕焼けがきれいだ。
下を見れば下校中の生徒たち。
友達と帰る者。一人で帰る者。腕を組んで帰るカップル。
爆発しろ。まったく。
お察しの通り僕には彼女がいない。
僕は深くため息をつく。
その時、誰かがぼくに話しかけてきた。
「黄昏れてるとこ悪いけど、ちょっといいかな?」
そう言った彼女は、僕と同じ文芸部に所属している。
男が文芸部なんて女々しいって? 失敬な。
かの有名な文豪、太宰治も夏目漱石も男性じゃないか。
まあいいや。
彼女は僕と好きな作家が同じで何度か語り合ったことがある。
読書にふける姿は人形のように美しく、語る姿は興奮に前のめりになる。そのギャップが可愛らしい。
笑った顔もすごくきれいで、この娘の笑顔が見られるなら、僕は死んでもいいと思う。
「何かな?」
僕はあくまで平静を装いながら返事をする。心臓の音が聞こえないか心配だ。
「すごく大事な話なんだけどね……」
放課後なためか、教室には僕らのほかに誰もいない。
彼女は心なしか焦っているように見える。顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだろうか。
「こんなの、君だけなんだよ?」
彼女は真摯に僕のことを見つめてくる。
僕は今まで彼女の好意に気づかない振りをしていた。だって、いざ僕のほうから告白して「自意識過剰でした」なんてことになったら、とんだピエロじゃないか。だから、彼女から告白してくるのを待っていた。
「他の人はもう……」
そういえば、僕と彼女以外の部員は全員恋人持ちだったな。ちくしょう。
「ねえ、顔が怖いよ」
いけないいけない。表情に出ていたようだ。失敗したな。
「他のみんなも言ってるんだ。君しかいないって」
あいつら……。いいとこもあるじゃないか。見直したよ。今度ジュースでもおごってやろう。
「私、もう我慢できないの!」
そういう彼女の言葉は少し怒っているようにも思えた。
その目には涙が浮かんでいた。
そうか、僕はそこまで彼女を苦しめていたのか……。ダメな奴だな。
「君もわかってるんでしょ?」
彼女は僕より背が低いため、自然と上目遣いのようなかたちになる。
ああ、もう可愛いなあ。
「わかっているよ。今までごめんね」
「そう、良かったあ」
彼女は笑顔を咲かせた。ああ、彼女を笑顔にさせることができてよかった。
これからはもっと笑顔にしてみせる。
僕はそう胸に誓う。
そして彼女は言葉を紡いだ。
「明日までにちゃんと部費払ってね!」
〇〇〇も甚だしい タマゴあたま @Tamago-atama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます