第12話 アニメ愛

「ただいまー。――ってあれ?」


 部室のドアを開けると、そこにいたのはリサちゃんだけだった。


「他のみんなは?」

「おかしや飲み物を買いに行きましたよ」


 そう答えるリサちゃんはどこか暗い表情をしていた。


「どうかしたの?」

「少し嫌な事があって……」

「ぼくでよかったら相談に乗るよ」


 リサちゃんがこんな表情するなんて。


「この前、友達と話していたんですけど……」

「うん」

「その友達が信じられないことを言ってまして……」

「どんな?」

「アニメを違法アップロードのサイトで観ているんです!」


 リサちゃんが身を乗り出して言う。


「え?」

「だから! アニメを違法で観ているんです! 平然と!」

「う、うん……」

「テレビ放送を録画したものや、レンタル、正式なサイトとかだったら別にいいんです。でも、違法アップロードされているものなんですよ! 犯罪なんですよ! だから、わたし言ったんです。それダメですよって。そしたらその人何て言ったと思います!?」

「リサちゃん近いよ……」


 あとコワイよ……。


「『みんなやってるよ』って言ったんです! なんですかそれ!? 集団だったら良いんですか! 集団で万引きしたら許されるんですか!? 違いますよね!」

「そ、そうだね」


 だからコワイってば。


「しかも、その人『続編早くこないかな』とかほざいてるんですよ! ふざけるなって話ですよ!」

「リサちゃん、言葉遣いが荒いよ……」

「わたしは『それなら円盤買いましょう』って言ったんです。怒りを抑えて。そしたらアイツ『え? 無料で観れるのにわざわざ数千円払うの? バカみたい』って言いやがったんですよ! バカはお前だろうが!」


 聞こえてないな。


「ところで、円盤って何?」

「ブルーレイやDVDのことです。そりゃ、ちょっと高いですよ。円盤て。『録画で十分』っていう人もいますし。じゃあ、なんで円盤を出してるかって話なんですよ」

「うん、なんで?」


 よかった。ちょっと落ち着いたみたい。


「そうしないと元が取れないからなんです。一つのアニメを作るのに、ワンクールだったら二億円くらいかかるんですよ……。円盤が高いのもそれ相応の理由があるんですよ……。それなのに……。それなのに…………」


 リサちゃんは机に突っ伏す。もしかして泣いてる?


「ハンカチ使ってよ」


 ぼくはリサちゃんにハンカチを差し出す。


「ありがとうございます。すみません。取り乱して」

「ううん、大丈夫。それより、その友達に今の話をしてあげたら? わかってくれると思うよ」

「はい、そうしてみます」


 そうしてリサちゃんはやっと笑顔になった。


「そろそろ終わったー?」


 声のした方を見るとマヤちゃんがニヤニヤしながらこっちを見ていた。後ろにはナギトくんとアカリちゃんの姿があった。


「いつからいたの!?」

「『ハンカチ使ってよ』のあたりから。カッコイイねー、ヒカリちゃん」

「よりによってそこから……」

「リサは爆発するとこわいからねー」

「知ってたの!?」

「うん、だからおかし買いに行ってたの」

「すまん」


 アカリちゃんもコクコクと頷く。


「すいません」

「別にリサちゃんは謝らなくていいよ」


 後日、リサちゃんが話をしたら、わかってくれて円盤を買うようになったらしい。良かったね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る