#7 特訓と書いて禁忌と読む

 さて、無事ウサちゃん、もといムホンを味方にした訳だが。次にやる事はもう決まっている。

 その為にはまず俺とムホンのレベルを上げておく必要がある。

 てなワケで特訓だ! 気合いだ!気合いだ!気合いだー! ……んだよムホン。なぜそんなやる気の無い目でコチラを見ているんだ。お前は従魔、俺は主人。俺が上でお前が下だ!

 分からないか? お前は俺の言うことを聞くしか無いんだよ。残念だったな。ウサギ畜生が人類様に逆らえるはず無いんだよ。へっ。


「ピョォン」


 ククッ、そう。それでいいんだ。睨んでいたって何も変わらない。せいぜい無駄な足掻きをしているんだな!ハッハッハ!

 ん?なんだ? ニンジンが欲しいか?ならまずお手だな。


「アビャァ、!」


 こ、コイツ……! 俺の指を噛みやがった! 親父にも噛まれたこと無いのに!

 主人の指を噛むとは何事か。

 この俺を怒らせるとは良い度胸だな。ならばと、俺はとっておきの特訓でムホンをシゴいてやろうと決意したのだった。

 主従関係を分からせてやる。


 俺は森を少し歩いた所に一体の〈一角兎アルミラージ〉を見つける。


「おい、ムホン。あれが何か分かるか?」


「ピョン。」


 俺の質問にムホンはそっぽを向く。まぁいいさ。その反抗心がいつまで持つか見ものだな?


「そうさ、お前の同族さ。今からお前にはアレを殺して貰う。そう、同族狩りだ。」


「……ピョンピョン!」


 ムホンは俺に悔しげに訴えかける。しかし、この世に慈悲は無い。残念ながら、お前はあの忌々しきソクソの作ったNPCなんだ。恨むならソクソと自分の運命を恨むんだな。


「ヒヒッ、好きに言えばいい。何を言っているのか全く伝わらないからな。何故なら……俺様が人類様だからだよ、なァ兎畜生。」


「ピョンッッ!!!」


 ムホンは眉を歪ませより一層強く俺を睨む。

 余談だが、精霊人エルフ山小人ドワーフ小人ハーフリング猫獣人ワーキャットなどの人型の生物も人類に分類されるようだ。


「さぁ、殺れ! 命令だ!」


「ピョ、ピョン」


 普通に殺した。しかもスキルを使って。

 更にお代わりとばかりに近くの他の一角兎もあっさりとひねる。


「え?」


 顔に付着した血がポリゴンになって砕ける。ムホンがコチラを向いてニヤリと笑って見せた。

 コイツ……! 俺に何とも思ってない事をさぞ苦しそうに演技し、俺のリアクションを楽しみやがった……。ち、畜生風情がァァァッ!


「ピョンwピョンwピョンwww」


「ホワァァァァッッ!!!!」


 ゲラゲラと、いやピョンピョンと笑い転げるムホンを前に、俺は奇声を上げる。小賢こざかしい子兎めがァ!

 ひとしきり叫んで正気を取り戻した俺は、この糞兎にスパルタレベリングをすることを誓った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺とムホンはレベル上げにいそしんでいた。

 俺のレベルはいつの間にか8にまで到達し、ムホンは9だ。おかしい。俺がご主人様のはずだ。

 従魔がた経験値の一部は俺に流れる。しかし俺のレベルはムホンより一つ下。納得できない。

 まぁ、テイムした時には既にレベル6だったんだけどねコイツ。だから俺よりレベルが上なのだ。

 だから、俺の好きに出来るコイツのスキルポイントも多い。知性無き魔物はスキルポイントを使う手段が無いからな。9×3で27ポイント。中々に貯め込んでいる。

 ので、コイツには今からスキルを大量に詰め込んで貰うとしよう。


【アクロバット】消費3ポ。立体的な動きを補助する。

【物理耐性】消費4ポ。物理攻撃による総合的な耐久性を強化!

【指揮】消費3ポ。これは配下へのバフや配下NPCへの行動の強制力などだ。

【魔法耐性】消費4ポ。【物理耐性】の魔法版。

【回復魔法】消費3ポ。回復を中心としたバフ魔法を使えるようにする。

【体術】消費3ポ。ステゴロで戦える技を使えるようになる。

【筋力値上昇】消費3ポ。隠し要素マスクデータであるステータスを上昇させるらしい。

最後に【槍術】消費3ポ。槍の扱いみたいに角もいけるかな、と思って入れてみた。


 ご覧のビルドを見て分かる通り、ムホンには今から群れのボスになってもらう。当然、コイツ自身の力も上げておく。ムホンには重要な役割があるんだ。

 その為に、俺はただいま絶賛一角兎を乱獲中だ。しかし、十体ほど捕まえた所で異変が起こる。


〖! 配下量キャップの残量が少ないです !〗


〖配下のレベルが上昇が阻害されますが、〈一角兎アルミラージ〉と契約しますか?〗


〖>>[Yes]/No〗


 答えはもちろんノーである。何の量だかキャップだかは知らないが、イエスだと悪い事が起こるのはわかる。ゲーマーの勘というやつだ。

 とりあえず仲間になる予定だったウサギ殺しておいた。

 チッ、こうなりゃムホンのレベルを上げてコイツも配下を作れるようにするしかないな。という訳で仲間確保のために中断していたムホンのレベル上げを再開せねばなるまい。

 いけっ!ムホン! たいあたり! こうかはバツグンだ!

 ムホンが兎畜生達に素早く突進する。兎畜生Aは逃げようとするが背を向けた瞬間、背に大きな穴が開きそのまま出血して倒れる。兎畜生Bはそれをみて応戦しようとする。

 ムホンへ向かい素早い頭突きを試みるが、ムホンの方がレベルは上。即ち兎畜生Bに勝てる可能性はゼロである。

 頭突きを躱された挙句、一気に腹の皮を突き破られ、Bは死んだ。


〖配下:”ムホン”がレベル10に到達しました。〗


〖”ムホン”は進化が可能です。進化先を選択して下さい。〗


 なんと、この度めでたくムホンが進化を遂げることとなった。この世界の魔物はある一定のレベルに達すると進化、と呼ばれる変態をする。

 この進化は魔物によって条件レベルが異なっている、とソクソは言っている。

 進化先を確認してみよう。さてさて、ウチのかわい子ちゃんはどんな姿に進化するのかしら?



一角大兎ビッグ・アルミラージ

 体と角が一回り大きくなった一角兎。全体的な能力が向上している。

・種族スキル【大跳躍】


二角兎ジャッカロープ

 大きさはそのまま、ヘラジカのような二本の角の生えた兎型魔物。魔法や素早さに特化している。二本の角は一角兎達の憧れの的。

・種族スキル【角の威厳】



 ほほう、面白そうだな。

 これは〈二角兎ジャッカロープ〉を選ぶのが正解だろう。理由はいくつかある。

 一つ、大きさがそのまま。大きければ質量を使った攻撃を使えるが、その分大きな的となる。更に言えば、の俺のプレイスタイルに見つかる危険性の高まる〈一角大兎ビッグ・アルミラージ〉のデカい図体は向いていない。

 二つ、素早さ特化。これは兎畜生の重要な攻撃要素、突進にかなり大きな強化が見込めそうだ。

 三つ、【角の威厳】。俺は今ムホンに配下を作らせようとしている。そんなタイミングで同族に憧れられる【角の威厳】だ。使わないわけが無いだろう。

 という訳で、早速二角兎に決定だ。


〖〈二角兎ジャッカロープ〉が選択されました。決定しますか?〗


〖>>[Yes]/No〗


 俺は迷うことなくイエスを押した。すると、ムホンの体が明るく輝き出す。角が伸びて分裂し、イッカクのような角からヘラジカのような角に形が変わる。


「ピョン!」


 心なしかムホンも嬉しそうに鳴く。周りの弟配下達も目を輝かせてムホンを見つめている。自慢げに胸を張り、角を強調するムホンを他配下はおおーっと、いやピョンと感嘆の息を漏らす。そんな珍妙ちんみょつな光景が俺の目の前に広がっている。なんだこれ

 俺は進化ボーナスの2ポイントとレベルボーナスの3ポイント、残り1ポイントの計6ポイントで【支配】【契約】のスキルをムホンに取らせる。

 ちなみに【魅了】は【角の威厳】で、代用されるようで必要無い。

 配下くん達や。お主らはムホンが大好きじゃろ? ならムホンの配下におなり。

 こうして、配下量キャップとやらはグリーンゾーンになったのだった。











>to be continued… ⌬

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