月
まる
一緒に見る月だから
「うえー………もう疲れた〜!!」
「何言ってんの、あともうちょっとなのに!」
「そうだけどさぁ、こんなとこまで来なくても。」
私たちの住んでいる町には、長ーい坂がある。
結構長い。長すぎるくらい長い。
ちょっとだけ休憩も入れて、10分くらい登っているが、全然上にたどり着けない。あともうちょっとなのは知っているけど。
「ほーら、星那ちゃん頑張って〜!!お兄ちゃん先に行っちゃうぞ〜??」
「そういう時だけお兄ちゃんって言うよね、自分で!ってかほんとに先に行くつもり??うーわ!酷い!一星のバカ!!」
私たちは幼なじみで、一星の方が年上。
今日は一星が珍しく、
”月、見に行こうよ!”
って送ってきたから、なんとなーく普段より可愛い格好してみたけど……。
「………お!!きたきた!行くぞ!」
って。服への反応はなかった。しかも置いていこうとするし。
「もう!置いてかないでよ!」
慌てて追いかけて、ここまで来た。
「ほら!星那!」
やっと坂を登り終えて、空を見上げるとなんだか届きそうなくらい近くに月があった。
「あの月に届かないかな〜??」
手を伸ばすと、一星は吹き出す。
「月、取れると思ってるの??」
「思ってないよ!もう小さくないもん!」
「思ってんだろ〜!!」
「んもう!!」
こんな会話をした後、しばらく月を見つめる。
「……ほんとに綺麗だな、月。」
「なんでそんな真剣な顔なの?」
「いや、なんとなく?」
「緊張してるの?」
「…………。」
「んも〜、月が綺麗って言うだけなのになんで緊張してんの!!一星らしくないな〜??」
「うるさいなっ…!」
拗ねてしまう一星。私は謝ってから月を見る。
月が綺麗って言うだけで緊張はしないはず、だったらなんで緊張しているんだろう…。
月を見ながら一星の言葉の意味をしばらく考えた後、前に本で読んだことを思い出した。
本に書いてあったことが本当なら…。
「……あのね、一星。一星と一緒に見る月だからこんなに綺麗なんだって、私はそう思う。ほかの人と見てたらこんなに綺麗じゃない。」
「なんだよ、それ。」
またしばらく沈黙が流れる。虫の鳴き声がいつもより大きく聞こえる。恥ずかしいからかのかな。
そんな事を考えていると、一星が笑いだした。それにつられて私も笑いだしてしまう。
「あははっ、なんか恥ずかしいわ、俺。」
「あははっ!私だって……恥ずかしいよ!」
「……また、見に来ような。」
「もちろん!あ、でも…」
「ん??」
「もうこんなしんどい思いしたくない!!坂、長すぎるもん!なんなのあれ!」
「あははっ、ごめんごめん。でもすごい綺麗じゃん?」
「それは確かに…またここで見たいなって思う綺麗さだね…。しんどい思いしたくないって言ったけど、またここに来るのは…、一星とならいいかも?」
「あはは!!どっちだよ!」
「いーじゃん、一星とならいいの!」
一星は嬉しそうな顔をしていた。
「あ、そうだ。星那。」
「ん?なに?」
「星那が来た時、恥ずかしくて言えなかったんだけどさ……今日のその服、すごい似合ってて可愛いよ。」
「なっ…!!バカ!!!」
「だ〜れが、バカだって??」
「知らないもん!!」
ちゃんと見くれてたんだ。嬉しいけど恥ずかしいから、一星の腕を強く叩く。
「いてっ!!あははっ、恥ずかしがってる星那も可愛いね!」
「もう!!」
月明かりがそんな私たちを包んでくれているようだった。
月 まる @maru_33726
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