étude

来居 夢畔

Op.1 - 静物画 赤 -

 指先と指先とが絡まりあう。

 お互いの吐く息が混じるくらいの至近距離。

 薄く朱色が差したその顔は、瞳に映る自分の顔と瓜二つ。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「なぁに。かえで」

「ううん、なんでもないの」

「ふふ、なにそれ」

 お姉ちゃんが口元をゆるませる。

 いくつになっても甘えん坊さんねとこぼして、私の手をぎゅっと握ってくれる。

 静かな時間が流れていた。

 私たち二人の他には誰もいない。

 座りっぱなしの足がしびれて身動ぎすると、裾と畳の擦れる音がやけに響いた。

 障子紙には、夕焼け空の燃える緋色が透けている。

 射し込む夕陽に部屋中が染められて、真白い肌は赤く照っている。

 お姉ちゃんの水色の着物柄も、今だけは私とお揃いのように見えた。

 触れ合った掌からは熱が伝わってきて、とっても温かくて。

 だけど障子の隙間から吹いてくる秋風で、さらさらと乾いていた。

 優しげな光を湛えた淡い薄紅色の瞳。

 私の顔を真っすぐな眼差しで見つめてくる。

 なのにお姉ちゃんの目に映り込んでいる自分の表情は、ひどく不安げだ。

 視線が落ち着きなく揺れて、目を合わせるだけでも精いっぱい。

 同じ顔、同じ体、同じ日に生まれたはずのわたしたち。

 どうして違ってしまったんだろう。

 どうしたら同じになれるんだろう。

 畳の上に輪っかになった紐が落ちている。

 お姉ちゃんにせがみ、二人で綾取りをして遊んでいた。

 さっきまで二人の指の間を行き来していた赤い糸。

 でも、私が間違えたせいで崩してしまった。

 間違った手で、お姉ちゃんの掌を握っている。

「ねぇお姉ちゃん、私ずっとお姉ちゃんと一緒に居たいな」

「そうだねえ。お姉ちゃんも、おんなじ気持ちだよ」

 わたしたちは仲良し姉妹だねと、お姉ちゃんは屈託なく笑った。

 遠くから鴉の鳴き声が聞こえてくる。

 お夕飯の支度を手伝わなきゃと言って、お姉ちゃんは台所へ行ってしまった。

 やがて太陽が沈み、夜の帳が降りた。

 赤みを失った空は、深く濃く青で塗りつぶされた。

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étude 来居 夢畔 @Sahne_brot

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