シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-3
翌日からいつもの日常に戻った。味がしないガムを噛むような日常。のはずが、放課後が待ち遠しくてワクワクしてソワソワしていた。
「牧田くん!飛鳥くん!部活行くよ!」
ほら来た。中くらいだ。あれから毎日迎えに来る。二人を連行するように部活に連れていく。牧田は無口だけど、まんざらではないようで、毎日学校に来るようになった。部活では色んな人が牧田に勝負を挑んでは返り討ちにしている。すっかりヒーローだ。オレはその様子を横目で見ながらサッカーゲームをのんびりと遊んでいる。牧田に挑んで負けて、悔しそうに帰っていく姿が、道場やぶりを返り討ちにしたかのようで、見てるだけで誇らしい。その日も同じ光景が見れるかと思いコンピュータ室に入ったら、いつもと様子が違っていた。ゲームがない机にずらっと横並びで五人が座っていた。
「連れてきました。さっ、そこに座って。」
「は、はぁ」
オレと牧田はいつもと違う様子に戸惑いながらも、言われるがまま椅子に座った。五人の前にオレと牧田。まるで面接。
「牧田くんと飛鳥くんだね。ゲーム部へようこそ。部長の中野英光(なかのひでみつ)だ。ハンドルネームは、中メガネ(NAKAMEGANE)」
「中メガネ部長とでも呼んであげて。気に入ってるみたいだから」
中くらいがすかさず突っ込みを入れる。中メガネと中くらいか。プププ。一人笑いを我慢する。
「私たち三年はもうすぐ引退。ニ人が入ってくれたおかげで廃部は免れたよ。ありがとう」
特に入りたい部はないし、楽しそうだし、入部届を書いた。中学まで運動していたオレには、ゲームして楽しいだけでいいのかなってちょっと罪悪感もある。
「将棋部と囲碁部とかるた部が合わさってできた部で伝統もあるから、私の代で潰さずに済んだよ」
そうだったのか。まぁ考えてみればそうか。テレビゲームで遊ぶだけの部なんてあるわけないもんな。
「今日は新入部員との顔合わせと打ち合わせを行います。全員がそろうことは奇跡に近いからね。いつもみんなさぼりまくりだから」
確かに。足を運ぶようにようになって一週間ぐらい経つけど、中くらい以外、顔を見たこともない。
「仕方ないじゃない。競技かるたやるの私しかいなくて、かるた教室通ってるんだから。あっ。私、二年の菅原美智子(すがわらみちこ)、みっちーって呼ばれてるわ。宜しくね」
「年に一回、学校行事として百人一首大会があるんだけど、ゲーム部が全部仕切りをやることになっていて、みっちーがほぼ全部やってくれてるの。いないと困る存在ね。そういえば……私ってちゃんと自己紹介したことあったっけ?二年の佐藤友美(さとうともみ)。今更だけど宜しく」
わわわ。名前もなんか中くらいだ。日本人の名前を多い順で並べたら絶対中くらいにいるはず。
「じゃあ。次は俺。副部長で三年の紀本瑞樹(きもとみずき)。マッチョ紀本ってハンドルネームで、あだ名でもある。その名の通り、俺は筋肉大好きだ。格ゲーのために筋肉を鍛えている。ゴホゴホッ。おっと、すまん、ちょっと風邪気味なもんで。筋肉はあるが虚弱体質なんだ」
格ゲーのために筋肉を鍛えている?虚弱体質?ちょっと何言ってるか分からない。
「最後、僕だね。二年の国分吾郎(こくぶんごろう)。ゲーム全般よくやるけど、PCゲーの方がよくやるかな。FPSが一番得意だね。ハンドルネームはフンコロガシ」
一番ゲーム部っぽい先輩だ。ハンドルネームは一番微妙だけど……。全員の紹介が終わると、中くらいが立ち上がり、僕ら一年をテレビショッピングの商品を紹介するように大げさなジェスチャーで紹介しはじめた。
「一年生はこっちがピカイチくんでこっちが飛鳥くん」
「ピカイチくん?」
何のことか思わず口に出た。牧田も同じ気持ちだったようで、お互い顔を見合わせる。
「ピカイチくんの話は聞いてるよ。ストファイで柔道部の金剛とボクシング部の井上を倒したんだってね。あの二人強いのにすごいな。僕は一回も勝ったことないよ」
なぜかドヤ顔で、メガネを人差し指で押し上げた。メガネが光ったような気がしたが、気のせいだろう。
「あのー、ピカイチくんとは?」
もう聞かずにはいられない。
「ストファイの実力がピカイチだからピカイチくん」
笑いが、こみ上げて、だめだ、もう、大爆笑。牧田も笑ってるかと見てみたら冷たい視線を返された。こみ上げる笑いを堪えながら顔を隠す。
「で、そのピカイチくんの腕を見込んで、校内格ゲートーナメント大会をやることにした」
「校内格ゲートーナメント大会!?」
全員の声が揃った。びっくり。部長がピカイチくんという名前を普通に使ってることにもびっくり。
「今日はその打ち合わせもするために集まってもらった」
「校内ってことは、校内から参加者を募る感じ?」
フンコロガシ先輩が気だるそうに質問する。
「もう参加者は決まっている。『一年生に負けたんだってね』って煽ったらすぐに参加を決めてくれたよ」
「柔道部の金剛とかボクシング部の井上とか?」
部長はドヤ顔で、メガネを人差し指で押し上げた。メガネがきらっと光った。気のせいじゃないな。間違いなく光ったな。
「負けず嫌いな連中だからな。そりゃ乗ってくるよな」
「たくさんの人を巻き込んで、大々的な大会にして、ゲーム部をアピールして新入部員をいっぱい獲得してしまおうって作戦だ」
なんだか安易な作戦。そんなにうまくいくかなぁ。
「うちの部からはピカイチくんと紀本の二人に参加してもらう。圧倒的な勝利でゲーム部をアピールしてくれ」
マッチョ紀本先輩がマッチョポーズで答える。
「大会は中間テストからニ週間後の放課後。中間テストで赤点は取らないように。赤点だと部活出席停止だからね」
おっと。そうなのぉ。大丈夫だろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます