エピローグ
ベスティアから戻った俺たちは、事後処理を終え、すぐに今回の内容を佐伯リーダーに伝えた。今回の件、自殺を志願する転生候補者との過剰な接触を行ったのだ。上層部に知られた場合、規則違反で面倒なことになっていただろう。だが、その辺は佐伯リーダーが上手く立ち回ってくれたのか、周りに知れ渡ることは無かった。いろいろあったが、今回の件はこれにて一件落着。転生候補者の意志に反した転生となってしまったが、何とか問題なく片付けることが出来たと言えよう。そして、この内容に一番満足していた白澤は、いつも以上に元気を振りまいていた。
「先輩先輩!」
「何だよ、本当に犬みたいだな」
「犬じゃないし!狼だし!」
「定時過ぎたし、疲れたから早く帰りたいんだが」
「桃子ちゃんからも聞いたけど、先輩って私のことを守ろうとしてくれてたんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「え?否定しないの?『べっ、別にお前の為じゃないし!』ってツンツンしてみせてよ」
「俺はツンデレではないし、男のツンデレに需要無いだろ。ツンデレは女がすべきだ」
「そっ、そっか……ありがと///」
「でもな?やっぱり今回のような仕事は、あまり深入りすべきではないんだと思う」
「会社のルールがそうだから?それとも、先輩も目の前で自殺を見てしまったから?私に辞めた先輩のようになってほしくないから?」
「……」
「あの時、先輩が来てくれなかったら、きっと固まったまま動けなかったと思う。すごく驚いて、怖くて、頭が真っ白になった。辞めちゃったその先輩もそうだけど、四島先輩もきっとそうだったんじゃないの?本当は、先輩が経験した悲しみを私に知って欲しくなかったから今回の仕事を拒んだんじゃないの?」
「それは違うよ」
「え?」
「自殺を目の前で見たとき、恐怖心も頭が真っ白になることも、何も感じなかった。言っただろ?俺は誰かが死んだとしても、仕方がないと割り切れるって。だからかな?御託を並べてそれなりのことを言っているように見えるけどさ、俺の言葉には感情が一切こもっていないんだ。だから、お前に先輩のようになってほしくないと佐伯リーダーには話したけれど、普通の人だったらこう答えるんだろうなと思って回答した。ただそれだけだ」
「先、輩……?」
「悪い、忘れてくれ」
「あっ!先輩待ってよ!どういうこと!?」
俺は、白澤との話を無理矢理切り上げると、足早に会社を出た。心底疲れた。疲れるのは悩むから。無駄なことで悩んだり、考えたりするから。慣れないことはするもんじゃねぇよな。これまでも、そしてこれからも、俺はきっと自分の気持ちを隠して行くのだろう。俺という人間は、そう出来てしまっているのだから。
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