第11話


「まずは自己紹介しますかね!ボクはまだヴァンにもメルヒにも会ったことがなかったですから」


 長い耳をひょこひょこさせて、兔の魔族のラギルがタトルの前に飛び出した。


「確かバイゼルも会ったことなかったですよね?」

「オレはある。だから必要ない」

「おお、覚えているぞ。飛び回って逃げた奴だな。大きくなったなあ」


 ヴァンは戸惑っている面々にかかわらず、鳥の魔族バイゼルに近づくと赤い髪を撫でた。


「触るな。髪の毛がみだれるだろうが」

「そんなことに気にするんだな。おっしゃれだな」

「え?バイゼル、気にするんですか?」


 場違いな暢気なやり取りが始まり、セインは苦笑する。犬型のメルヒは呆れてしまって、そっぽを向いて空を眺めていた。 

 ラギルとバイゼルが軽口を交わすのはいつものことで、魔の国から人の国に入るときに散々やり取りを聞かされた。そこにヴァンが加わり会話はどんどん可笑しな方向に進んでいく。


「そろそろ、いいだろう。自己紹介の代わりになったか?ラギル?」

「あ、まだですよ。メルヒ。現実逃避しないで。こっち見て下さい。ボクはラギル。よろしくお願いします。人型のほうが話がしやすんだけど?人型は好きじゃないんですか?」

「あ、こいつも今は人型のほうがいいんだけど、あいにく服がなくてな。裸じゃ色々まずいいだろう」

「は、裸?」

「ヴァン、余計なことを言うな。私はこれでいい。話もできるし、いいだろう」

「そ、そうだよ。ヴァン!」


 人型なんかになってメルヒの裸体が他の人に見られたらと思うと、まるで自分のことのように恥ずかしくなって、セインは慌てて付け加える。


「おや。そういうことですか。あ、でもボク、代わりの服ありますよ。ボクのサイズなら合うんじゃないですか?」

「そうか?じゃあ、借りようかな」

「まって、まって。だったら、ここじゃなくて違うところで」


 着替えるにしてもこの場で人型になると真っ裸になってしまうと、セインは慌てる。


「当ったり前でしょう?」

「そうだぞ」


 ラギルとメルヒに同時に答えられ、なにやら不埒な想像をしてしまったとセインはいたたまれない気持ちになってしまった。


「いい加減……。収拾がつかないな。まったく。とりあえず場所を移動してからゆっくり話そうか。この先に小屋がある」


 タトルから提案され、一同はその小屋に向うことになった。


 ☆

 

 ラギルとヴァンを中心に賑やかな一行は森を抜ける。

 馬に乗るのは、タトル、ヴァン、セインとラギルだ。魔族の三名は馬に乗っていたが、セインたちに合流したことで、馬の数が足りないことで、バイゼルが鳥型に変化して目的の小屋へ飛んでいくことになり、セインがラギルと相乗り、ヴァンがバイゼルの乗っていた馬に乗ることになった。

 メルヒは犬型のまま、セインたちの馬の後方を走る。

 

 ーー疲れてないかな。

 

 手綱を握るのはラギルなので彼は時折後ろを振り返る。メルヒの姿を確認して安堵するが同時にこうして馬にのって楽をさせてもらっていることに後ろめたさを覚える。


 ーーでもメルヒの裸が見られるのはいやだ。


 考えはそこにいってしまい、セインは自身の心の狭さにまたしても凹みそうになる。小屋についたら人型になってもらって休んでもらうことにして、どうにか自身を納得させた。


「国境近くかなんだな」


ヴァンがふと馬をとめて、周りを見渡しそう言う。

メルヒはゆっくりと立ち止まって息を整えているような仕草を見せている。

 セインも同様に周りを見てみるが、彼には国境近くなのか、どうなのか判断がつかなかった。

 

「そうだよ。だからすぐに見つかってよかったよ」


 


 ヴァンの言葉にこたえたのは、セインの前にすわるラギルで、彼は疑問を覚える。


「僕たちをさがしていたのか?」

「うん、陛下の命令でね」


 セインの質問にラギルがすぐに答え、ヴァンの隣にいたタトルが顔をしかめるのが見えた。


 --まずいことなんだろうな。ザイネルが探しているって、どういうことなんだろう。復讐は失敗したのに。だから戦力増強ということなのかな?タトルたちが加わっても一緒のような気がするけど。


 セインがそんなことを考えていると、空を旋回していたバイゼルが少し先の木立に降り立った。なれたもので、鳥型のときもカバンを身につけていて、そこに服が入れられているようだ。木立から現れたバイゼルは服をしっかり身につけていた。


「休憩しようぜ。メルヒも疲れているみたいだぜ」


 バイゼルに指摘され、メルヒを見ると舌を出して座っていた。


「そ、そんなことはないぞ」


 体を起こして答えるが、息が切れているので説得力がまったくなかった。


「メルヒ、人型に戻ったほうがいいよ。えっと僕がヴァンと乗るから、メルヒはラギルの後ろに乗っけてもらえばいい。ラギル、服をかしてくれる?メルヒ、あの木立にいこう。さっき、バイゼルも着替えていたみたいだし」

「それがいいと思います。あ、でもセインは付いていかなくてもいいんじゃないですか?」


 ラギルは馬から降りたセインに予備の着替えを渡しながらそう聞き、それを聞いたヴァンがニヤニヤしながら会話に加わってきた。


「そうだよな。必要ないよな。メルヒ、着替えくらい一人でできるだろう?」

「当たり前だ。馬鹿にするな!」


 メルヒは馬鹿にされたと思って、犬型のまま吼える。


「そうだって。残念だったな。セイン」

「残念ってどういう意味だ?」

「ヴァン。変なこと言うなよ。僕はそんな意味でいったわけじゃないんだからな!」

「そんな意味?」


 メルヒがとことことセインに近づいてきて、彼を見上げる。


「メルヒはきにしなくていなくていいから。ほらこれ着替え。銜えてもっていく?」

「ああ」 


 彼女が頷き、一同はメルヒが人型に戻り着替えるまで休憩することにした。

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