第10話


「復讐は遂げる。どうにかして。そのために生きてきた」

「もちろん、私も同行するぞ。元々火をつけたのは私だからな」

「よし、目的は変わらない。あとは手段だな。あの王妃は手ごわい。ザイネルさえ、手のひらの魔法陣を使って、魔法を使うのに、あの王妃はそんな仕草もみせなかった」


 三人は頭を揃えて考え込む。


 復讐に関して、城の生活に慣れてしまったこと、記憶が失ったメルヒが楽しそうだったこともあり、その想いが薄れ掛かっていたのは事実だ。

 トールもジョセフィーヌもセインには優しかった。

 けれども、二人が彼の両親を城から追い出したのは事実。

 そして何の援助もしなかったことを。

 フェンデルの告白に驚いたこともあったが、なんだか母のことが少し誇らしくなった。

 恐らく王から金銭を提示されたのだろうが、母はセイン達との生活を選んだ。貧しくはあったが、セインはあの時確かに親子3人幸せだったのは事実だったからだ。


「フェンデルはどうなったんだろう。飛ばされなかったってことは?」

「……殺されてはいないだろう。仮にも王の親友と呼ばれた男だ。彼が裏切ってなければ、処罰を受けることになるはずだ」

「彼は裏切らない」


 セインが即答するとヴァンが笑った。


「だろうな」


 馬鹿にされたのかと思ったのだが、一つ目の男はその大きな目を細めて頷く。


「だが反逆罪だから、死刑になるだろう」

「死刑?!」

「ああ」

「それは駄目だ。助けないと」

「無理だろう?あの王妃がいるんだぞ」

「だって、どっちにしても城に戻って復讐するんだ。助けることも計画の一つに入れたらいいじゃないか!」

「無茶苦茶なこというな。お前は」

「私もそうすべきだと思うぞ。恩は返すべきだ」

「恩って、なあ」


 ヴァンはその一つ目に戸惑いの色を浮かべた後、空を仰いだ。


「困っているみたいじゃないか。我らが手を貸そうじゃないか」


 三名の元に届いたのは、一つの声。

 セインが声のした方向へ注意を向ける。すると三つの影が見えた。

 

「タトル。それにバイゼルにラギル!」


 それは人の城で別れた魔族の3名だった。



「浮かない顔をしてるな。当然か」


 食欲などあるはずがない。

 それでも食事の時間はやってきて、二人は広間で夕食を取る。

 給仕役の使用人はスープの毒味を終わらせた後、王と王妃の元へスープを運んだ。


「申し訳ありません」

「謝る必要ない」


 トールはそう答えて、スプーンを掴む。そしてゆっくりとスープを梳くって口に入れた。

 ジョセフィーヌも同様にスープを口にした。


「君は何を考えている?フェンデルをわざと転移させなかっただろう?」



 王の問いに王妃は答えなかった。


「フェンデルは反逆罪で極刑だ」


 代わりに彼が再び言葉をもらし、ジョセフィーヌは持ち上げたスプーンをテーブルの上に戻した。


「彼が私の命を狙ったことは公になっている。処罰しなければ国が立ち行かなくなる」

「わかっております」

「国の事は大事だ。けれども、君のことはもっと大切だ。何か考えがあれば話してくれ」

「陛下。そのうちに、考えがまとまりましたらお話します。もう少しお時間をくださいませ」

「わかった。私は待とう」


 スープの次の前菜が運ばれてきて、毒味係が味を確かめた後、トールが食べ始める。

セインが城に来てから、食事は賑やかなものになった。彼を気遣って話しかけていたせいもある。けれども、今日は気遣う相手もいなく、二人は静かな食事を続けた。


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