第8話

「王妃様。あんたは手出しをしちゃいけない。あんたの相手は私だ」


 セイン達のやり取りを見ていたメルヒだが、強力な魔法使いであるジョセフィーヌが邪魔しないように牽制する。


「ケリル……」

「私はケリルじゃない。その名で呼ぶな!」


 メルヒは甲冑を脱ぐと、犬の姿に変化した。そして王妃にとびかかる。


「ごめんなさい。今はだめなの」


 勝負はあっけなかった。

 ジョセフィーヌが手をかざすとメルヒの姿が消えた。


「メルヒ?!」

「何だと?」


 トールと剣を合わせていたセインが、状況を見ていたヴァンが声を上げる。

 

「余裕だな」


 王はその状況に驚くことなく、隙を見て彼を攻め立てた。メルヒに注意を払っている余裕がなくなり、防戦一方になる。ヴァンは彼女が消えた状況に驚きながらも、剣を構えると王妃に向かう。


「どういう魔法がわからんが、当たらなきゃいいんだろうが!」

「それが難しいということよ」


 王室の床が光り、今度はヴァンが消えた。


「同じ場所に飛ばしているからご安心なさい。セイン、あなたも。私たちは人の国を守る必要があるの。王と王妃として。トール様!」


 ジョセフィーヌの呼びかけに呼応して、トールはセインから離れた。

 するとセインの足元の床が光り、光が彼を包み込む。


「くそっつ!」


 彼が残したのは悪態だけで、その姿は王室から綺麗に消え去っていた。


「こうなれば私自身で決着をつけるのみ」


 最後にフェンデルが残され、彼は選択する。


「あなたには残ってもらう必要があります」


 けれどもフェンデルの剣はトールに届くことはなかった。

 彼は目前で気を失い、床にたたきつけられていた。


「助かった。ジョセフィーヌ」

「彼らからしたら、私はとんでもない極悪人なのでしょうね」

「君は私の命を救ってくれた。極悪人などととんでもない」


 トールの言葉にジョセフィーヌは薄く微笑んだだけだった。




ザイネルはご機嫌だった。

翌日呼び出された亀の魔族タトル、鳥の魔族バイゼル、兔の魔族ラギルは魔王の様子に驚きながらも平伏したままだ。


「いやいや、王妃は強いねぇ。まったくどうしたものか」


 困ったような言葉なのだが、口調は以前と変わって楽しそうだった。


「何があったのでしょうか?」

 

 昨日の今日だ。この変わりようにタトルが代表して尋ねる。


「いやはや、セイン君、とうとう復讐をする気になったみたいなんだ。それもヴァンとメルヒと一緒にね」


 ザイネルの返答にタトルは耳を疑う。

 メルヒには直接会ったことはなかったが、フェンデルから王妃にかなり懐いていると聞いていたので飼い主を噛むような態度に出たことが不思議だったし、ヴァンに至ってはいつの間に人の国に、しかも城に侵入していたのだろうと、表情は無表情を保っていたが驚きでいっぱいだった。


「それでさ、面白いことに王妃が魔法を使って三人を一気に転移させちゃったらしい。フェンデルは昏倒させられただけだけどね」


 それのどこが面白いのかと思いながらも、タトルは黙って聞いている。

 

「まあ、王妃は手ごわいってことだね。大樹も何もしないし。さて、どうしたものか。とりあえず君たちセイン君たちに合流してくれる?話はそれからだ」


 セインを暗殺しろという話から、今度は合流。

 ザイネルの気の変わり方にタトルは溜息をつきたくなったがぐっと堪えた。


「畏まりました」

「早速出発してね。報告待ってるよ」


 魔王との話はそれで終わり。

 タトルたちは腑に落ちないと思いながらも、部屋を退出した。

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