第4話


「……おはよう」

「な、なんでお前が隣に寝てるんだ!」

「っていうか、お前が俺のベッドを占領したんだろうが」

「だったら床にでも寝ろ!」

「ほーんと、メルヒは変わったなあ」


 メルヒが目覚めるとなぜか隣に一つ目の男ヴァンが寝ていて、ぎょっとして起き上がった。そうしてずきずきする頭で思い出す。

 

「前はさあ、別に気にしなかっただろう?なんだ、セインに気をつかっているのか?」

「つ、つかうわけないだろうが。馬鹿なことをいうな!」


 ヴァンは立ち上がりながらニヤニヤ笑っている。


「俺、今日休みだからちょっとぶらぶらしようぜ」

「ぶらぶらって?そんな余裕があるわけないだろう?」

「ぶらぶらって何考えてるんだよ。城の偵察に決まってるだろう。本当」

「煩い。黙れ」


 メルヒは枕をヴァンに投げつけると、ベッドから体を起こした。


「冗談はその辺で。お前、勝手に逃げてきたんだろう?きっと王妃辺りがさがしているだろう。ああ、セインもかもな。王妃に見つかると面倒だからちょっとお前もこれでも着ろよな」

「甲冑?」


 ヴァンがごそごそと取り出したものをみて、彼女は首を捻る。


「甲冑を着ていたら騎士だって思われるはずだ。だから色々便利。飯は買ってきてやる。ちょっと待ってろ」


 戸惑っている彼女に構わず、彼は勝手に決めると部屋を出て行ってしまった。


「騎士団はザルなのか?甲冑着ていたらそれは騎士だって思われるだろうけど、点呼とかでバレるだろうが。それに……」


 そう言いかけて、メルヒはヴァンのことを考える。

 一つ目の彼は普段は甲冑をきているとはいえ、どうやって騎士として城にもぐりこんだのか?

 

「協力者……。そうか団長のフェンデルだな」

 

 近衛兵団でありながら秘密裏にセインとメルヒを会わせたこと、それを考えると彼がヴァンとつながっていてもおかしくなかった。


「しかし、なぜ、あいつが……」


 フェンデルは王と王妃に多大な信頼を置かれ、部下たちにも慕われている。

 メルヒがそんなことを考えていると、扉が叩かれる。

 反射的に身を隠そうとして、ベッドにもぐりこんだ。


「俺だよ。俺」


 ヴァンがそう言い部屋に戻って来てメルヒはベッドから抜け出す。


「ベッドに隠れるとか、とんだけ間抜けなんだよ」

「煩い」

「ほら、飯。二人分だと怪しまれそうだったから、一人分な。半分ずつ」


 彼はパンを二つにちぎるとメルヒに渡した。持ってきた盆にはチーズとスープの入った器が乗っている。

 昨晩記憶が戻る前に彼女はしっかり夕食を食べていたが、犬の姿に変化したこともあってからお腹が空いていた。なのでヴァンからちぎったパンを受け取るとかぶりついた。



 


セインが目を開けると目の前にいたのは王と王妃であった。


「セイン。ごめんなさいね」


 彼は自身が拘束されていることに気が付いて、二人を見上げる。


「自由になると暴れるだろうと思ってな」


 口にも布を巻かれていて、彼は唸るだけ。


「復讐をしたい気持ちはわかる。城を追放されたことは兄上の非だが、その後私たちはあまりにもお前たちに対して無関心だった。王族ではなくなったとはいえ、兄上には変わらずお前は私の甥だ。あの女が殺された段階で、兄上とお前を保護すべきだった」


 ーーあの女!


 王トールの物言いに、セインは頭に血が昇り、彼を殴りたいと無我夢中で動く。けれども拘束された手足が自由になることなかった。


「私の命はじきにお前にやろう。お前が王として立派に人の国を導いてくれると約束してくれるなら、私は喜んでこの命をやろう」


ーーそんなこと知るもんか!


 セインは更に暴れ、縄がこすれ、手首と足首が擦り切れて皮がめくれて血が滲み始めた。


「セイン。お願い」


 ーー何がお願いだ!この魔法使いが!


 近づいてきたジョセフィーヌを睨みつけ、トールは深いため息をついた。


「何が不満なのだ。お前は人の国の王になられるのだぞ。事が済めば私も命をやろうと言っている。ケリルのことか?彼女のことが気になるのだろう?ケリルなら時期に見つかるはずだ。彼女も私の命を狙っているのだろう?」


 王妃を庇うようにトールが前に出てセインに問いかけるが、彼は二人を睨んだまま暴れ続けた。皮がめくれひりひりとした痛みが増していく。けれども、彼はやめなかった。


「もうやめて。セイン。眠りなさい。今はただ」


 ジョセイフィーヌの歌声のような声を聞いて、彼は再び眠りに落とされる。


「セインは我々の話を聞くつもりはないようだ。どうすれば」

「ケリルがいれば……」

「無理にきまっているだろう。あの魔犬もセインと同じだ。記憶を取り戻したら、なお」

「それでもケリルがいれば少しは状況が変わりますわ」

「状況は悪くなる一方だと思うがな。とりあえずセインはしばらく休養ということで皆には伝える。わかったな」

「はい」


 王がまず部屋を出てから、王妃を呼ぶ。

 ジョセフィーヌは一度だけセインを振り返ってから、トールの後を追った。

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