第2話 回想



 数年前。

 カルル村に向かう時、馬車が魔物の群れに襲われた事がある。


 魔物は、森の中で生息している生き物だ。

 それは世界の常識である。

 だけれど、だからといってそこから出ないというわけではない。


 めぼしい獲物がいなかった場合、食料を求めて森の外に出てくることもある。

 魔物だって生きてるんだから、生きるために多少常識から外れた行動くらいはする。


 おいつめられた人間だってそのようなもんだし。


 だから、街道を通っていたとしても、魔物に襲われる事があった。

 数年前街道を通っていた僕達の馬車は、運が悪かったのだろう。


「ま、魔物だ!」


 食料を求めて森から出てきた魔物とばったり遭遇してしまった。


 御者台で馬の手綱を握っていた父は、危険を察知して素早く馬車を走らせた。


「馬車の中から出てくるなよ」


 そして、馬車内ににる僕と母に警告の言葉を送ってくる。


 けれど、遭遇してしまった魔物の足が予想以上に速かったのだ。

 追いつかれてしまって、馬車の後部から魔物が乗り込んできた。


 そいつは、動物の狼に似た姿の生き物だ。

 確か、ダークウルフという名前の、黒い毛並みの魔物だった。


 馬車内にいた母はためらいもなく動いた。

 非常時に思い切りがいいのは油断ならない商人相手に商談をしてつちかわれた能力の一つでもあるだろう。


「ヨルン、そこから動かないでちょうだい」


 商品の長物を持った母が魔物の前にでて、馬車から突き落とそうとした。


「やあっ」

「ぐるるっ!」


 けれど乗り込んでくる魔物は一体だけではなかったから……。


 一匹を落としても、攻防に終わりがなかった。


 やがて、一度にまとめて数匹の魔物が乗り込んできた。


 絶対絶命。

 その時の僕は、そう思ったのだけど。


 でも、そこを。


「大丈夫よ!」

「俺達が助けてやる!」


 いつのかにか並走していた馬車から飛び移った者達がいた。


 同じ年頃の少女と少年だ。


 二人は、二匹の魔物を剣の鞘で馬車から払い落とした。


 命の危機に、さっそうと現れた者達。


 それが、幼馴染のお嬢様と馬鹿だった。


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