第20話 魔法研究所と男性魔法使い

「うーん……、エリオット? 男性の研究員は何人か知っているけれど、貴方の名は聞いたことが無いわね」

「僕が研究所に所属することになったのは随分と昔のことですから、知っている人は知ってると思いますよ。ただ最近はずっと引きこもって、表舞台に出ることがあまり無かったので。だから、外部の人には知られていないんだと思います」

「なるほどね」


 男の魔法使い、というのは非常に貴重な存在。王国の繁栄の象徴として、諸外国に大々的に公表している。我が国には、これだけ多くの男性魔法使いが居るんだというアピールのために、国の魔法研究所に所属している者たちが広く知られている。


 僕も所属した当初、数十年前は男性魔法使いの代表として売り込まれていた時期があった。その後、王国の様々な式典や行事、恒例の儀式など面倒なイベントについて可能な限り不参加で通した。その面倒な時間を、魔法研究のために使いたいから。


 魔法の研究に没頭している間に、いつの間にか代表は他に移っていた。そして僕の存在も知る人が減っていき、意図せず秘匿されたような状況になっていった。ただ、好きなように魔法の研究をするために引きこもっていただけなんだけど。


「でも、貴重な男の魔法使いを辞めさせるなんて信じられないわね。もしかしたら、上の人に掛け合ったらクビを取りやめてもらえるかも」

「僕にクビを言い渡したのは、研究所の所長でしたから難しいと思います。ちょっと交渉する事も考えてみたんですけどね。僕がメインで進めていた結界に関する研究が一段落したので、研究員を辞めるのに丁度良かったんですよ」


 なのでもう、魔法研究所に戻る気は無かった。


 色々と考えてくれているシモーネさんのアドバイスはありがたいと思うけれども、抗議しに行くつもりは一切ない。


「そうなの? 貴方がそれで良いと思うのなら、私がとやかく言うべきことではないわね。私達は、貴方のダンジョン探索を全力で手伝わせてもらう事にするわ」

「そうだぜ! シモーネの言うとおり、力いっぱい全力で私達が手伝ってやるから。里へ戻るための旅行資金は安心しな」

「ありがとうございます」


 全面的に協力することを約束してくれる、クロッコ姉妹。出会ったばかりなのに、親切な人達だった。


「なんなら、故郷へ帰る旅の護衛を務めようか? 私達なら安全に送り届けることが出来るからな」

「あー。えっと」


「金が無いなら、私達が出してやろう。こう見えて、お金はいっぱい持っているから助けてあげられるよ」

「それは、ちょっと考えておきます」


 ちょっと積極的過ぎるフレデリカさんに引き気味の僕。流石にそこまで付いてくるとなると、まだ判断はできない。


 とりあえず今はダンジョンに潜ってお金を稼ぐという目的を果たそう。その結果によって、同行を許可するのか判断を下せばいい。

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