第7話 遠い過去のダンジョン

「あの、えーっと……。ドラークダンジョンですか?」

「はい。ドラークダンジョンの入場許可を」


 ダンジョンの名前を間違えたかな。記憶を振り返ってみたけど間違いはないはず。不審そうな表情を浮かべている受付の女性に再度確認されたので、堂々とした態度で答える。間違っていないはずだから。


「そこは現在封鎖されていて、ギルドでは入場許可を出していません。何十年も前に王国から危険領域に指定されて、今も危険領域から外されていませんが?」

「あれ? そうなの?」

「は、はい。かなり昔に、冒険者でも立ち入りは禁止されています」


 そうだったのか。知らなかったことなので驚いた。


 王都の近くにあるダンジョンなんて、昔なら立ち入りが禁止されるほど危険な領域ではなかったはず。冒険者であれば誰でも入ることが出来る場所だった。申請すれば立ち入りの許可証を簡単に発行してもらえた。


 だが現在では、冒険者だとしても危ないダンジョンに立ち入ることは禁止されるているらしい。面倒なことだ。


 やはり昔と比べると色々と冒険者のルールが変わっている、ということなのかな。冒険者という界隈から離れて、僕の知らぬ間にルールが変わっているらしい。


 王国から危険領域に指定されているということは、相当に危ない場所であるということを示している。


 最近、各地で凶暴なモンスターが増えてきているという報告が多数あった。もしかすると、ダンジョンの中に生息しているモンスターたちも凶暴化しているのかな。


 引きこもって研究ばかりで外の情報について、ほとんど何も持っていない。これはマズイか。後で、情報収集が必要かな。


 とりあえず今は、ダンジョンの立ち入り許可証を発行してもらえるようにギルドの受付女性と話し合いを続ける。




 危険領域指定されているような場所は、王国に実力を認められた一部の王国騎士や特級冒険者だけしか立ち入りを許可されない。冒険者ギルドでは、許可を出すことが出来ない。立ち入りを許可する権限がないから。許可をもらうためには、王国貴族の承認が必要。つまり、今すぐに許可を得ることは不可能だということ。


「それなら冒険者ギルドでも入場許可を出せるダンジョンの中で、ここから一番近くにあるものを教えてもらえないですか?」


 ドラークダンジョン以外のダンジョンには、思い出に残るような印象のあるものは無かった。なので受付の女性に思い切って聞いてみた。彼女から得た情報によって、潜るダンジョンを決めることにする。


 僕が質問すると、彼女は困惑した表情を浮かべながら教えてくれた。とても親切な人だった。


「それなら王都から一番近くに有るリーヴァダンジョンがオススメですよ。出現するモンスターは第五級からなので危険も少ないですし、初心者から上級者まで皆さんが探索に挑んでいます」

「リーヴァダンジョン?」


 初めて聞いた、ダンジョンの名前だった。最近、発見されたダンジョンなのかな。そういえば、ちょっと前に報告を聞いたような。……覚えてないな。


 とりあえず、リーヴァダンジョンというのが近くにあるらしいことは分かった。


 第五級モンスター。全十級までランク付けされているモンスターの危険度を測った基準の真ん中辺りの強さである。


 モンスターの強さを表す指標は、第一級がランク最上位で、第十級がランク最下位という順位付けになっている。


 数字が小さくなるにつれて、モンスターの危険度が増していくことを表す数値だ。数が大きくなると危険度は減っていく。つまり、第一級のモンスターは非常に危険。逆に、第十級モンスターは危険が少ない。


 第五級のモンスターというのは、一般人だけで討伐することは不可能だと言われる程度の強さ。冒険初心者や駆け出し冒険者ならば2、3人で連携すれば何とか勝てるぐらいの相手である。熟練冒険者と言われるようになると、1人で楽々と狩れるようになる程度。


 そんなモンスターが生息しているというダンジョンをおすすめされた僕。やはり、弱く見られているのだろうな。でも仕方がないことだろう。


 身長は低く、装備している防具はローブっぽく見える魔法使いの衣装。しかも僕は1人で冒険者ギルドにやって来た。一般的に、魔法使いはソロでの戦いに向いてないから仲間を集めるべきだ。でも僕は、魔法を駆使して1人でも戦える。


 第五級モンスターとの戦いは、少し物足りないかもしれないな。だけど、せっかく受付の女性におすすめだと紹介されたので行くことに決めた。投げやり気味に、そのダンジョンで良いやと思ったので。

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