第6話 かつて冒険者だった男エルフ

 ギルドの建物内で待機している冒険者たちを横目でそれとなく観察しながら、僕は受付の女性に近づいていった。昔は乱暴な者が多かったから、警戒してしまう。まぁ大丈夫そうだ。


 受付の女性は手元で何か作業をしているようで、視線が下向きのままだった。僕がカウンターの前に立っている事に、しばらく気が付かなかった。


 気付いてもらえないので、僕から声を掛ける。


「こんにちは」


 忙しそうだし申し訳ないかなと思いつつ声を掛けてみた。すると彼女は慌てた様子で、手元の作業を中断すると素早く顔を上げて対応してくれた。


「あ。ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日は、どのようなご用件でしょうか?」


 カウンターの向こうに座っているギルドの受付をしている女性は、おそらく20代前半ぐらいの年齢だと思う。かなり若く見える人間だった。


 彼女以外に、対応してくれるギルド職員は居ないみたいだ。やはり、日々の業務で忙しいのかな。すぐ用事を済ませよう。


 定形のあいさつをしながら明らかな営業スマイルで用件を聞いてくる彼女に僕は、ギルドを訪れた用件を伝える。


「ダンジョンの入場許可証を頂きたいんですけれど」


 僕はこれからダンジョンに潜って、一気に旅費を稼ごうという計画を考えていた。


 食料などは空間魔法を駆使して貯蓄してあったものを使えば、今すぐダンジョンに潜っても1年間ぐらいなら問題なく過ごせる量は収納してあった。飲み物や食料は、部屋にこもるために必須だから。


 武器や防具なども予備まで収納してあるので、すぐにでもダンジョンの攻略を開始することが出来る。


 過去の僕が冒険者だった頃、依頼を引き受けて短時間で手軽に生活費を稼ぐことが出来た方法である。ダンジョン内に生息しているモンスターを倒し、素材やアイテムなどを地上に持ち帰れば一気にお金がもらえて、旅費もゲットできるはず。


 旅を始めるための計画は完璧である。ただし、久しぶりにモンスターと戦うことになるので戦闘能力は鈍っているかもしれない。


 まぁ、トレーニングがてらダンジョンに生息しているモンスターと戦ってみよう。それで現状の把握をして、ゆっくりと鍛え直しながら攻略していけば良いだろう。


「はい、ダンジョンの入場許可ですね。どちらのダンジョンの立ち入り許可証が必要なのでしょうか?」


 王都の近くには、いくつかダンジョンが存在していた。どこのダンジョンに潜って稼ごうかな。記憶を頼りに目的のダンジョンを選ぶ。少しだけ悩んで、僕は答えた。


「それじゃあ、”ドラークダンジョン”の入場許可をお願いします」

「え?」

「ん?」


 僕が許可証の発行をお願いしたのは、ドラークダンジョンという名のダンジョン。王都から少し離れた場所にある、ダンジョンの1つ。


 ダンジョンの中に入るといきなり、第3級のモンスターに指定さいれているような強敵が続々と出現して、更に奥に進めばドラゴンなどの伝説的に強力なモンスターが出現する可能性もあるという。つまり、かなり難易度が高めのダンジョン。


 危険なモンスターを相手にする見返りに、かなり稼ぎが良い場所でも有る。1日で平民が3年間は遊んで暮らせるぐらいの大金が一気に手に入るかもしれない。


 当時は荒稼ぎ出来るダンジョンとして有名で印象深かったから、今でも覚えていたダンジョンの1つである。


 今日は、そのダンジョンに潜ってお金を稼ごうと思う。そこなら旅の資金は、すぐに稼げるはずだろうから。


 しかし、僕がドラークダンジョンの入場許可を求めると受付は、なぜか唖然としたような表情で僕の顔を凝視してくる。


 ダンジョンの名前を言っただけなのに、知らず知らずのうちに何か間違った事でもしてしまったのかな。焦ってしまう。

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