第25話 怪物襲来 呪いの王

 ――ネジレとヒズミの呪いが消えた……

 次々に消える下僕の呪い。真っ先に消えたのはカーネルだった。次いでほぼ同時にネジレとヒズミの呪いが消える。本来、呪いの王は己の生み出した呪いと感覚を共有できる。それがまるでほんの僅かな光すらも差し込まない海の底にいるかのようにまったく入ってこない。ただ、己の生み出した呪いの消失のみを知覚できていた。しかもこれは――。

 ――妾の領域を乗っ取りに来ている?

 よりにもよって不可侵領域である呪いの王の支配領域に何者かが干渉してきているということ。もちろん、屋敷全体に張りめぐらせた呪いの循環は依然として無傷で存在しているから、取るに足らない干渉にすぎまい。

 しかし、侵入者が限りなく神に近い呪いの王の神聖不可侵の領域に踏み込む不敬をしてきたこともまぎれもない事実。そんなことは――。

 ――許さぬ……

 呪いの王にとって絶対に許容できぬ屈辱的行為。煮えかえるような怒りにより、

 ――狼藉者は誰ぞ!?

 怨嗟の声を張り上げる。

 賊は巷で噂の伝説の勇者だろうか? ハンターギルドという姑息で貧弱な人間種の集団だろうか? それともバベルを設立したあの最高位のエルフだろうか。それとも、人間種の突然変異の個体だろうか? 

 いずれにせよ、呪いの王からすればたかが、虫けら。その虫けらごときが神に最も近い位置にいるこの呪いの王の領域を土足で踏みる? そんな不敬、絶対に許せるものか。この呪いの王の領域を穢した愚か者にはとびっきりの呪いにより永劫の苦しみを味会わせてやる。

 ――ユガミ、侵入した賊を私の前まで生きたまま連れてきなさい!

『御意クマ!』

 熊の縫いぐるみは、呪いの王に一礼するとクルクルと片足立ちになって回転する。回転する度に湧き出る目を縫いつけられた小型の縫いぐるみたち。

『賊どもを見つけ次第、ここまで引きずってくるクマ! 生きてさえいれば手足の一本や二本ちぎっても構わんクマ!』

『ラジャー!』

 丁度、小型の縫いぐるみたちは踵を揃えて敬礼したとき石室の大扉が勢いよく開かれてこの地下二階の大扉前を守護していたツギハギだらけの皮膚のない巨人が転がり込んでくると、

『ば、ば、ば――』

 腰を抜かして指を扉の外を指して怯えた魚のように目と口を必死にパチパチと動かしていた。

『騒々しいクマッ! 王の御前クマよ!』

 叱咤するユガミなどお構いなしに、

『ばけものぉぉぉぉっーーー!』

 ツギハギだらけの巨人は絶叫する。刹那――

『ぐへ?』

 その口に長刀が突き刺さり、頭頂部から引き裂かれ縦断される。

 そのツギハギだらけの巨人の躯の前にはいつの間にか冗談のように長い刀剣を片手に持った黒髪の人間が佇んでいたのだった。

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