第5話 自重など皆無なとびっきりの策
話の中心はローゼの治めるケット・グィーとフェイスタとの経済協力について。此度、私たちケット・グィーはフェイスタの特別顧問となり、技術的な提供をすることとなった。対してその技術の使用料として利益から数パーセントの報酬を受ける。そんな契約だ。フェイスタの事業が軌道に乗りさえすれば我らにも相当なインセンティブがある。今までの我らの慢性的な資金不足もかなり解消されることとなるだろう。
「当初から構想していた事業の案のいくつかを提案しよう」
「ポーションは、今、世界各地で流通を増やしているところね。もうしばらく時間が欲しいのね」
「わかっているさ。ポーションはお前たちに一任しているし、その判断に任せるよ」
ポーションはどうやらこの世界では奇跡のアイテムのようで、一般的ではない。今我らが大量生産に踏み出せば十中八九、他の勢力から目を付けられる。もちろん、力づくで奪いに来るなら徹底的にこの世から排除するまでだが、わざわざ好き好んで敵を作る必要もない。何より、【深魔の森】でとれるトゥル草でなければ、迷宮で発掘されるような良質なポーションはとれないことは既に実験で判明している。フェイスタの人員がこのケット・グィーの領地内の工場で働くのは少々、問題が多すぎるからな。
「感謝するネ」
頭を下げるリンリンに右手を挙げると、
「お前たちもそれでいいな?」
「はい。ご協力心より感謝いたします」
ギルが席を立ちあがり、私に恭しく頭を下げる。
「ふむ。それでは次は本題の人員の確保についてだ。ローゼ、お前のスカウト計画を具体的に説明してもらおう」
半年前にローゼに与えたミッション。むろん、現在全てが解決しているとは夢にも思ってはいない。一定の道筋のみでも見つけていればそれを採用して私が緻密な計画を練り、ローゼに試練を与える。
「虐げられた人々を支援する組織、『リベレーター』の幹部の人たちとの接触に成功しました。彼らを介して先の戦争で逃げ延びていた獣人族の人たちとの交渉を近々する予定です」
「ふむ、『リベレーター』か。確か訳あって日の当たる生活ができなくなったものたちを支援する組織だったか」
中々面白い奴らに目を付けるものだ。確かに今のローゼの立場では最適の解かもしれん。何より、『リベレーター』の支援の対象はそもそも祖国を失ったり、面倒な理由で祖国にいられなくなったものばかり。共通している条件は、常に追われる生活を送っているということ。いわば、この世界の爪弾き者だ。選択肢がそもそも与えられていない彼らならば、ローゼの領民になることも了承してくれる可能性が高い。
何せローゼには権力はもちろん、十分な財もない。唯一保有するのはこのイーストエンドという不毛の未開地と風猫という僅かな領民だけ。少しでも余裕のあるものたちならば、絶対に誘いには乗ってこないだろう。これらを考えれば決して悪くない選択だ。もっとも――。
「獣人族か。悪くない。悪くはないが、それだけか?」
もう少し頑張って欲しいところでもある。
「それだけ……他にも候補がいる。そう仰りたいのですか?」
「さあ、どうだろうな? だが、もう一度調べてみたらいいんじゃないか。答えはお前が考えるよりも身近にあるかもしれんぞ」
今度入学するオウボロ学園には、そのキーマンがいるのは既に調べがついている。ローゼも自らオウボロ学園の編入を志願したらしいし、すぐに察しはつくだろうさ。
「また、全てお見通しなのですね」
私に一泡ふかせたかったのか、ローゼは僅かに悔しそうにそう呟く。
「そうでもないさ」
近い将来ローゼに降りかかる苦難は相当なものとなる。正直、ローゼが乗り切れるかは半々といったところだろうさ。
「では今回の会議はこれで解散とする」
さーて、面白くなってきたぞ。策を練らねばならん。自重など皆無のとびっきりなやつをな。
私は再び、策をめぐらすべく自室へ向かって歩き出した。
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