第153話 フェイスタ

 ――紅魔国デルマポア

 現在、紅魔国の首都、デルマポア一室で紅魔国の宰相と対談しているところだ。

 ギルが治める新国の名はフェイスタとなった。ギル達が私に名前を決めて欲しいというので、私が名付けたのだ。『祭り』を意味する異世界の言葉であり、単に『まつり』と『まつりごと』をかけただけ。特段、大層な意味などない。

 参加者は私とローゼ、アスタ、フェイスタの代表、ギル、キージが参加している。


「貴国への我らの参入と我らの紅魔国の民の庇護が我らの要求です。むろん、敗戦国として政を行っていた儂らの処断は行っていただいて結構!」

「本来、そうするのが手っ取り早いはずなんだがね。これだけの圧制を行っておきながら、一般民衆の中にもこの紅魔国でのアルデバランの心棒者は多い。理由はいくつか考えられるが、お前たちも、すき好んで憎まれ役をやっていたわけではないのであろう?」

 宰相は顎を大きく引くと、

「この紅魔国は魔族の全領土の中でも断トツで生産性に乏しい土地。特に我らが王、アルデバラン様は当初は貧民街の孤児に過ぎなかったのです」

「その孤児が四大魔王を打倒して、魔王の座に就いたと?」

「はい。アルデバラン様は当時、圧制を敷いていた魔王を殺して御自身が魔王アルデバランと名乗りました。アルデバラン様は当初は純粋にこの紅魔国の将来を考えていました。しかし、強さのみが絶対の価値基準である魔族という種族の中ではこの紅魔国が生き残るためには、内外に力を示す必要がある。それで……」


 口籠る宰相。だが、この言葉の先は語らずとも予想など容易につく。


「力を求め続けて、途中で目的がすり替わってしまったてわけか」

 

 若い奴らによくある誤りだ。目的を遂げるために力を求める。次第にその力を得ること事態が目的となってしまい、道を踏み外してしまう。


「あの方は魔王になどなるべきではなかった。そうすれば、少なくとも己を見失わなくてすんだ」


 宰相が苦渋の表情で声を絞り出す。この様子だと、この宰相はアルデバラン様が魔王となる前から知っているのだろう。もっとも――。


「アルデバランの最後は私も見届けたが、威風堂々とした王として恥じぬものだったよ。だから、お前たちは誇っていい」


 実力はともかく、あの一瞬だけは奴は王だった。いや、王たらんとしていた。それだけは誰がどう言おうと真実だ。


「そう……ですか。感謝いたします。その言葉だけで幾分我らも救われます」


 宰相は深く頭を下げる。


「ではさっそく具体的な話をしよう。お前たち紅魔国はフェイスタへの参入を希望する。それでかまわんな?」

「はい」

「ギル、では、説明を頼む」

「はっ!」

 

 立ち上がり、右手を胸に当ててつつも恭しく一礼する。


「僕はフェイスタの総議長、ギルバート。ギルでかましません。貴方たち、紅魔国からも50名、議員を選出してください。我ら50名の議員の総勢100名の合議により、政を実施させていただく」

「は? 今、なんと?」

「我ら50名と紅魔国50名の総勢100名の議員の合議により、政を運営していきます」

「敗者の我らも政に参加できるのですかっ⁉」


 驚愕の表情で紅魔国の宰相は声を張り上げると、


「ええ、この政治体制は我らの宗主の強く主張することです」


 ギルは大きく頷いてそれを肯定する。実際にはこの議会制の国会態勢は、ローゼが出した案を私がこの世界に調和するようにいじくったもの。国家運営にとって重要となるのは資源と人材だ。一方的に支配するやり方は、この人材や資源の無駄な浪費を招く。その国の民に運営させた方がより効率的なのだ。この政治体制ならば、後々、支配国が増えたとしても効率的に運営をすることを可能にする。


「……貴方たちは本当にそれでよろしいのですか?」

「国には独自の文化や思想があります。それを政治、経済、軍事に上手く活かせるのはその国の民だけ。僕もそれが最も適切だと思っています。何より、その方が面白そうだ」


 ギルの返答にしばし、あんぐりと大口を開けていたが、右の掌を顔に当てて笑い始める。


「面白いですか。確かに、国の政をずっと行ってきた身としてはその体制は非常に興味がわきますな」


 宰相は立ち上がると、私に深く一礼をして右手をギルに差し出し、


「貴方たちのご提案、謹んでお受けいたします。私たちもそのフェイスタに是非加えさせていだきたい!」


 大声で返答する。


「よろこんで!」

 

 ギルも笑みを浮かべつつ、その手を握り返す。


「では、さっそく紅魔国への食糧の支援の件を具体的にさせていただく」


 キージの提案に、


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 宰相以外の紅魔国の重鎮たちも涙ぐみながら感謝の言葉を述べたのだった。


 ――紅魔国、フェイスタへ参入される。

 総議国フェイスタ、参加加盟国、キャット・ニャー、紅魔国の二か国。これは、この世界レムリアに歪ながらも初めての連邦国家が出現した瞬間であったのだ。


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