第141話 苛立ち アスラ
六つの悪趣味な怪物を象った装飾の為された椅子の一つに座りながら、三面の鬼神アスラはイライラと右足の裏で床を叩いていた。
アスラの前にあるのは既に息をしていない肉塊。それらは魔王軍の兵隊の一匹だったもの。
「だから――つまらねぇって言ってんだろ!」
魔族の将に術をかけて死なないように解体していた白装束の悪軍所属の拷問官の全身が弾け飛ぶ。
そのあまりに不条理な行為に、他の拷問官たちは跪き視線を床に固定しながらカタカタと震えている。命を受けてアスラが満足しなければ、次に自分がああなると明確に感じ取っているから。
「魔族どもを屈服させろ! これはそんなに難しい命令か!? あー!? どうなんだっ⁉」
椅子から立ち上がって、拷問官どもに怒声を浴びせる。その様を悪軍将官たちが面白そうに薄ら笑いを浮かべながら見ていた。
悪軍の価値基準は常に強さ。それからすると悪軍の拷問官の強さは軍全体からみたら一兵卒程度の力しかない。故に、ここにいる将官たちにとっては、拷問官など死んでもさして困らぬ消耗品。この反応はある意味当然のことと言えた。
誰もがアスラの命に答えられぬ。その事実に突如、正面の顔が三面の一つである憤怒の形相に変わる。
『アスラ様ぁ、わたくしに考えがあります』
頭から無数の蛇を生やし、露出度の多い軍服を着た悪神、メドゥーサが胸に右手を当ててそう進言してくる。
『考え!? ごますり目的で適当なことをぬかすのなら、例え貴様でも許さんぞ!』
憤怒の顔でアスラが語気を強めるが、
『例え適当でも、そんな無能どもよりも、ずっとずっと、アスラ様の御希望に沿えると思いますよぉ』
歌うように返答する。
「御託はいい! さっさと答えろ!」
『では、お耳を拝借――』
メドゥーサはアスラに近づくとその耳元で囁く。直後、アスラの正面の怒りの顔はふてぶてしい笑みへと変わる。
「いいだろう! 確かにそれは楽しそうだ! メドゥーサ、貴様に任せる!」
満足そうに頷くとアスラは椅子にドカッと腰を下ろす。
『我らが大将閣下の御心のままに』
メドゥーサは深く一礼すると、拷問官たちに近づくと何やら指示を出す。
拷問官どもも慌ただしく動き出したのだった。
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