第132話 さあ、始めよう! 久方ぶりの命を賭した闘争を!


 巨大な門の前で直立不動していた魔物数匹が私たちに目を止めて、


『貴様ら、止まれっ!』


 武器を構えてこちらを威嚇してくる。


『みない顔だな? 所属を述べ――』

 

 言いも終わらぬ間に死線によりバラバラの肉片へと変える。

 私たちの前には一つの巨大な門と二つの怪物を象った建物が聳え立っていた。


「随分と悪趣味な建物なことだ」


 こんなでかいだけの建物で虚勢を張らねばならぬとは悪軍とかいう奴らは、アメリア王国の高位貴族どもと思考回路は大差ないのかもしれん。


「アスタ、ここにいる輩二匹は本当に強いのだな?」

「この世の圧倒的強者である」


 やはりか。解析能力のあるアスタがここまで即答するのだ。おそらく、それは真実なのだろう。

 この点、悪軍の大半が雑魚の集団であることは、この目で確認したから間違いない。だから、私の部下たちが悪軍とやらを壊滅させたのは予想の範疇。戦いにすらならぬのは端から目に見えていた。私にも読めないのはここからだ。

 アスタやギリメカラ、ベルゼバブさえも、この建物の中にいる二者に必要以上に警戒している。この建物内にいる二者は、私が今まで出会った中で最強の存在である可能性が高い。

 つまり――それは久方ぶりの命懸けの闘争に身をゆだねるということ。


「マスター、そのイカレた武器を鎮めるのである」


 顔を顰めるアスタに、村雨に目を落とすと放出された濃厚な闘気が渦となって纏わりついていた。そして、ギリギリと何かが軋む巨大音。


「うむ、そうだな」


 咄嗟に村雨から漏れ出したオーラを押さつける。

 いかん、いかんな。村雨だから無事だったものの、他の一般の武器なら握りつぶしていたかもしれん。おそらく、後にも先にも私が全力で扱えるのは村雨だけ。例え雷切であっても、私が本気を出せば、破壊まではともかく亀裂くらい入ってしまう。気を付けねば。


「中に囚われているものさえいなければ、この建物ごと消滅させてやってもいいのだがな。奴らに多少の動揺くらいは与えられるだろうよ」


 先手必勝は戦いにおける常道だ。そして実力が拮抗している二者間での闘争では少しの気のゆるみも敗北へと繋がる。先ほどの豹頭の魔物のような数だけいる雑魚であっても、あちらのやり方如何によっては敗北の一因にもなりかねない。まあ、長くあのイージーダンジョンにいたせいで、とんと御無沙汰ではあるわけだが。


(多分、それですべてが終わってしまうのである)


 ボソリと隣のアスタが何かを口にしたような気がしたが、


「ではアスタ、奴らの二匹を分断しろ!」


 奴らは外道だ。救いようのないほどのクズ。必ずここで責任をもって駆除する。同時に奴らは強い。私が今まで戦った中で最強。ならば、奢りも油断も厳禁だ。最も効率よく、確実な勝利を掴むためにも、二者を分断して各個撃破する。それが最も堅実というものだ。


「……」

 

 アスタ無言で顎を引くと、右手に持つステッキを掲げて詠唱を開始する。空中に浮かぶいくつもの立体魔法陣。それらは二つある怪物の形状の建物のそれぞれを包む。


「空間自体を遮断したのである。これで奴らの交通及び交信の手段を奪ったのである」


 これで、あとは一匹ずつ駆除していけばよい。

 ここまでは、私にとっての・・・・・・勝利を最大値にするための手段。これ以上の策は野暮というものだ。どのみち、真の強者に策を弄しても大して効きやしないだろう。ここからは、私の流儀で行かせてもらう。すなわち――。

 門に向けて村雨を一線する。イカツイ門に線が走り、直後ズルッと地響きを上げて崩れ落ちていく。

 さあ、いくさを始めよう。久方ぶりの命を賭した闘争を!

 



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