第125話 悪軍特殊部隊壊滅


『まだ、先行部隊とは連絡は取れんのかっ!』


 特殊部隊師団長ジレンマ少将は苛立ち気に叫ぶが、


『ダメです! 以前として音信不通です!』


 焦燥たっぷりの返答が側近から帰ってくる。

 周囲に立ち込めている濃い霧のせいで周囲の確認もままならない。この軍悪軍特殊部隊は悪軍の中でも精鋭で構成された部隊。流石に、遊びに夢中で任務をおろそかにするような奴はいない。だとすると、答えは一つだ。


『どうにも嫌な予感がする。すぐにここを離脱する』


 ジレンマが側近に命を送るが、


『……』


 微動だにせずに返答すらしない。


『おい、聞こえてるのかっ!』


右肩を掴んで激高すると、側近はグルリと振り返る。側近はその両眼はグルグルと忙しなくジグザグ運動をしており、ケタケタと笑いだしてしまう。


『ぬッ⁉』


側近から飛び退いて、立てかけてあった槍を掴み、身構える。

 側近の全身の体表がボコボコと茹で上がり、変質していく。そして、あっという間に熊の縫いぐるみに似た生物に変わってしまう。そして、その奇妙なほどファンシーな熊の縫いぐるみモドキは、


『我らがアテナ様に敬礼ッ!』


ビシッと直立不動すると、右手のようなものを額に当てて声を張り上げた。


『敵からの攻撃だっ! 総員戦闘態勢!』


 慌て周囲の部下たちに命じたが、ジレンマを守っていた最精鋭たちもいつの間にか縫いぐるみとなって、大木の間から現れた青色の髪を左右でお団子に巻いた少女に敬礼をする。

 あまりの自体に上手く頭が働かず茫然自失で佇んでいると、


「それをやりなさい、ですの」


青色の髪を左右でお団子に巻いた少女は、親指で首を切る仕草をする。


『はっ!』


 縫いぐるみどもは、最敬礼をするとジレンマに一斉に飛び掛かってくる。


『舐めるなぁッ! 俺は悪軍少将だぞぉッ!』


 突進してくる熊の縫いぐるみの脳天めがけて灼熱の槍で突きを放つ。

 縫いぐるみは身体をくねらせてそれをかわすと、踏み込んでくる。まさに間合いを喰らいつくされて目と鼻の先でクマの縫いぐるみは、右ひじを振り絞っていた。


『くっ!』


 横っ飛びで何とかそれを躱すも、熊の縫いぐるみは空中で数回転して放った後ろ回し蹴りがジレンマの腹部深く突き刺さる。腹部に凄まじい衝撃が生じ、木々をなぎ倒しながらも吹き飛んでいく。


『ぐがッ!』


 縫いぐるみのたった一撃で少将のジレンマは瀕死の重傷を負ってしまった。ジレンマにはそもそも物理攻撃につき著しい耐性がついている。それは無効化にすら匹敵する特上の物理的防御能力。それに加えて対魔力をアイテム等で著しく増強させている。今のジレンマに通る攻撃など皆無に等しい。それこそ、六大将閣下クラスの攻撃でもなければ勝てぬまでも耐得うる自信はあったのだ。その自信は実にあっさり、縫いぐるみ風情に破られてしまう。

 立ち上がって周囲を確認して、


『うぁ……』


呻き声を上げる。さもありなん。周囲の暗闇からジレンマを数百の縫いぐるみが伺っていたのだから。

 縫いぐるみ共はゆっくりと近づいてくる。


『うああぁぁぁぁ……』


 ジレンマの口から出た嗄れた叫び声は次第に肉を引き裂かれる音と絶叫へと変わってしまう。


 ――悪軍特殊部隊壊滅


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