第120話 悪砲兵師団壊滅


 悪砲兵師団と防衛師団は、悪軍の要。防御により、敵の遠距離攻撃を無効化した上で遠方から砲撃してその命を摘み取っていく。この方法は悪軍を今まで勝利に導いてきたまさに必勝にして必殺の方法。そして、此度もそうなるはずだった。

遠方の銀色の美しい狐の群れに向けて、


『一斉砲撃ッ!』


 大号令が発生られる。五千もの悪砲兵師団から一斉に放たれる赤、黄色、青、黒、白、緑、金、銀、白銀など、色鮮やかな魔法や呪力の込められた矢が、空を駆け巡り銀色の美しい狐の群れへと殺到する。

 銀色の狐たちの先頭で佇む、薄くしい銀髪の女の九つの尾の一本が発光すると、その周囲にはドーム状の透明の被膜が形成され、数百万にも及ぶ砲弾は全て被膜に吸い込まれて、次の瞬間、まるで時を遡行するかのように、悪砲兵師団へ向けて返っていく。


『はぇ?』


 悪砲兵師団軍団長が間の抜けた声を上げたとき、自ら放ったはずの攻撃手段により次々に撃ち抜かれる悪砲兵ども。たった、一撃。そう、悪砲兵の最高の一撃により、即死、または瀕死の重要を負う。


『そ、そんな馬鹿なッ! 反射だとッ!』


 悪砲兵もバカではない。天軍にはあらゆる攻撃を反射する化け物がいたりする。その対策もぬかりはなかった。反射無効の攻撃が一つ一つに編み込まれているし、仮に反射されても、己の攻撃につき無効や耐性を獲得している。一撃で軍団が壊滅するなど通常ありえない。間違いなくあの反射はその攻撃の性質を改変増強されてしまっている。そして最も解せないことは――。


『防衛師団は何をしていたっ⁉』

 

 現在、あらゆる攻撃を無効化する最高の結界を展開中なはずなのだ。当然、反射されたものにも効果があるはず。それが全く作動しなかった。それは奴らの怠慢に他ならない。


『そ、それが、あちらも大慌ての様子です! おそらく、結界自体は発動されていたものかと!』


 益々不可解だ。結界を消失するなどそれこそ絶対できるわけがない。何よりそう簡単に無効化されるような結界をスペシャリストの防衛師団がはるはずもない。


『無駄だぜぇ。結界の存在自体・・・・この世から粉々に分解し尽くしたからなぁ。もう同じあれは二度と発動すらできねぇよ』


額に角を生やした三白眼の男が背後に複数の角のある甲冑姿に全身に包帯を巻いたものたちを引き連れて佇立していた。


『き、貴様――』

「あー、言わんでいいさ。既に死んだ奴に俺っちたちの名を教えても無駄ってもんだ」


(既に死んだ?)


その疑問がよぎったとき、視界が罅割れていく。そして、悪砲兵師団軍団長はサラサラの水分まで分解されしまう。


『もう既に碌なのは残っちゃいねぇが、お前らも好きに暴れろ! 結界野郎どもは九尾にくれてやれ! そういう取り決めだからなぁ』


 額に角を生やした三白眼の男が叫び、他の甲冑姿の者たちも鬨の声を上げて走り出す。


 ――悪砲兵師団壊滅



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