第84話 北西部の探索(1)

 まず、最重要なのがキャット・ニャーの都市民の避難だ。キージとオルゴが代表となり、都市民の避難誘導を行う事になった。

 対してルーさんの捜索はたっての希望によりサイクロンが代表を務め、最強の存在の捜索は彼の外見を知る僕が代表で捜索することとなった。


「ギル……」


 涙目で僕に抱き着いて見上げてくるシャルの頭をそっと撫でると、


「大丈夫、必ずまたここに戻って来れるから」


 自身に言い聞かせるように伝える。


「うん……」


 シャルは僕の胸に顔を埋めると動かなくなってしまった。僕の捜索チームにはチャトやターマも参加する。基本、寂しがりやのシャルならば、当然こうなることは分かっていた。なにせ、シャルは当初から頑なに僕らの捜索チームに加わることを強固に主張していたし。もちろん、今回の捜索は敵地ギリギリでの探索が見込まれる。シャルには無理であり、結局都市民とともに加わることになった。

 シャルはしばらく僕に抱き着いていたが、いつもの無邪気な笑顔を浮かべて、


「じゃあ、またね!」


 両手をブンブンふってキージ達のあとについていく。

 僕も後ろ髪をひかれる思いを抱きながらも、探索へと向けて出発した。



 僕らが向かうのは唯一探索がまだだった北西部。ここは普段、魔物も寄り付かぬ巨大な酸の湖が広がる超危険区域。

 あの最強の存在は幾度か、『真剣勝負のゲーム』と発言していた。信じがたいことだが、アルデバラン魔王軍の侵攻自体が、彼から僕らに課した一種の難題のようなものである可能性がある。

 まあ、魔王アルデバランを一蹴りで粉砕するくらいだ。あの存在からすれば、この世の全ては道端で這う虫と大差ないのだろう。そう考えればある意味、奇異ではないといえるかもしれない。

 あとは、あの夢か。あの最低屑野郎の夢は最近、稀に見ることがあった。だが、以前の夢は今までとは全く違っていた。あのクズ野郎の大量の過去の情報を劇場で無理矢理見せられている。そんな違和感極まりない感覚。あれは一体何なんだろう? 

流石に雇われていたハンターだったとするのは、あまりに非現実的だ。これは僕の勘だが、僕はあのクズ野郎と過去に一定の関係があり、その際に記憶が一部、繋がってしまったのだと思う。この記憶喪失もそのせいと考えれば一応の説明はつく。

 まあ、あんなクズ野郎の過去などどうでもいい。記憶を戻すことはこの事件を無事解決してからゆっくり検討すればいい。どのみち、今の僕には過去などに大した価値はないし。

 そんなことをぼんやりと考えていると、


(おい、ギル!)


 チャトが右腕を伸ばして僕らの歩みを制止する。きっと、僕の開発した探索系のアイテムにヒットでもしたのだと思う。

 僕が軽く右手を挙げると、皆円陣を組んで重心を低くする。

 肌がひりつくような緊張感の中、僕は腰の鞘から魔法剣フレイムを抜くと剣の師である青髪の大柄の剣士を模倣する。

 アルデバラン配下の魔王軍なら、こんなコソコソ後をつけるようなことをせず、実力行使にでている。奴らはそこまで僕らを過大評価していない。それがあの夢を見た今なら確信していた。

 今も僕らを伺っている奴はアルデバラン以外の勢力なのは間違いない。それなら、なんどでもやりようがある。


(僕がやる!)


 僕は地面を蹴って探索系のアイテムの指す地点へと高速疾駆する。

 眼前に迫る白色の羽をもつ赤髪の少女に、慌てて急停止をする。彼女は夢の中でみたガルタ族の少女であり、同じキャット・ニャーの住人。少なくとも魔王軍とは無関係なのは間違いない。

 だが、どうして彼女が僕らの後を追ってくる? 夢の中ではかなり、腕に自慢の発言をしていたし、捜索チームに入りたかったとか?

混乱の最中、一定の距離をとりつつフレイムを鞘に納めて、


「君、ガルタ族だろう? 避難はこっちじゃないよ?」


 もちろん、このタイミングだ。間違いなく、彼女は僕らの後をつけてきていた。だからこれは彼女の警戒心を解くためのただの方便。


「そ、そう。間違えちゃった」


 案の定、ガルタ族の赤髪の少女は僕の予想通りの返答をしたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る