第71話 戦場へ

 闘技場を出てから避難場所へ向かうように叫びながら、僕は北門へと向かう。

 北門へはすぐに到着した。


「敵は?」

 

 見張りと思しきガルタ族へ尋ねるが、


「それが、さっきまであそこの湿原でアルデバランを先頭に、魔王軍が踊りながら進軍してくるが見えたんだが、どういうわけか、見失ってしまったんだ」


 当惑気味にそんな意味不明な返答をする。


「アルデバランが踊りながら進軍? 軍単位で消えた? 白昼夢でもみたんじゃねぇか?」


 いち早く北門へと来ていたブーが太い眉を顰めて聞き返す。


「嘘じゃないっ! 本当に数千の魔族が隊列を組んで気色悪い踊りをしながら湿原を高速で駆けてきていたんだっ! 信じてくれッ!」


見張りのガルタ族は必死の形相で声を荒げる。


「とは言ってもなぁ。実際にいやしないわけだし」

 

 確かにブーの言う通り、この城壁の上からは魔王軍など見当たらない。身を隠すにしても数千が一瞬で消えるなどおよそ考えられない。

 一方で見張りの魔物たちの様子からも彼らが嘘を言っているようにも見えない。それがわかっているから、そんな荒唐無稽な報告にも短気なブーが怒りださないんだろうし。


「もちろん、僕らは君たちが嘘を言っているとは思っちゃいない。敵からの何等かの攻撃だろう」

「幻覚ってやつか? ケトゥスが敗北して奴らも必死ってわけか」

「うん……そうだと思う……」


 幻覚。自分でそう結論付けて置きながら、どうしてもしっくりこない。少なくてもアルデバランは魔王だ。幻覚による陽動などそんな行為、してくるものだろうか?

 どうしても、噂にきくアルデバランの像とこの現状が結びつかない。


「とりあえず、一度、会議場へと戻ろう」


 これが陽動だとしたら、対策を立てる必要がある。

 

「そうだ――」

 

 ブーの言葉は都市の中心から上がる爆音と天まで届かんばかりの火柱により妨げられる。

 そしてその爆発にまるで呼応するかのように、都市の至ところで火柱が上がる。


「ギルッ!」

「ああ、奴らからの襲撃を受けている!」


 もはや疑う余地はない。僕らはアルデバランの侵入を許してしまった。


「どうする?」

「もちろん、侵入された以上、戦うしか道はない。ブー、君は魔物たちの避難を手伝ってやってくれ!」

「ギル、お前は?」

「僕は奴らの首魁であるアルデバランを倒す」


 上手くいけばそれで奴らは瓦解する。もちろん、僕は勇者でもなければ、英雄でもない。魔王の討伐は勇者や英雄の所業である以上、勝利は難しいのは百も承知。だがやらねばならない。そうしなければ、僕は全てを失う。

 ブーは僕の顔を少しの間黙って凝視したが、


「わかった。死ぬなよ。お前らも全員避難民の誘導だ。気合をいれろ!」


 言葉を絞り出すと北門の見張りを連れて走り去ってしまう。

 さて、僕もいくとしよう。このまま奴らに勝手放題させるには僕はこの都市や魔物たちが好きになり過ぎてしまった。

 瞼を閉じて僕の理想とする剣の師である青髪の大柄の剣士をイメージする。突如、力が沸き上がり、僕は地面を蹴って戦場へと向かう。



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