第58話 青き大竜の最後
――ノースグランド元沼地の北方の湿地帯
「おのれぇ……」
目つきの悪い青年ケトゥスが怨嗟の声を上げながら、ぬかるんだ沼地を這っていた。
青年の両腕、両足は根本から千切れ、顔の半分が溶解し、胴体は焼けただれていたる。そんなまさに瀕死の状態の全身からは青色の細かな糸状のものが多数生み出されており、急速に修復をしていることが伺えた。
「あの人もどきめぇっ! ただでは殺さぬぅ! ありとあらゆる痛みと屈辱を永遠に与え続けてやるっ!」
ケトゥスがそう叫んだとき――。
「無様だねぇ♬」
どこか陽気な声色で髭を生やした筋骨隆々の大男がケトゥスを見下ろしていた。
「アルデバラン! 貴様ぁ、謀ったなぁっ! 何が
ケトゥスは内臓が震えるほどの激しい怒りに声を張り上げるが、アルデバランは肩を竦めて首を大きく左右に振る。
「君は竜の
自身の右肩に乗るリスに尋ねると、
『そうさ。君は
リスは少し言葉に詰まるも、ケトゥスにとって受け入れられない事実を力強い口調で保障する。
「敵の方が一枚上手だとぉッ⁉ ふざけるのも大概にしておけっ! 竜王はこの世で最強の存在。それを易々上回る存在などあってたまるかっ!」
『あーあ、それは間違い。この世にはトカゲの王を超える奴などゴロゴロいるさ。トカゲの王が最強など笑い話にもならない暴論だよぉ』
呆れたように、そして蔑むような口調でそう言い放つリスに、
「トカゲじゃとっ! 貴様はこの我をトカゲと言ったのかぁっ!」
血走った両眼で口から小さな火柱を吐き出しながら怒号を上げる。
『もういいや。そのトカゲウザいからやっちゃて!』
顔を顰めるとリスはアルデバランに命じる。
「了解ですねぇ。我が君ぃ」
アルデバランはケトゥスの両肩を掴む。そして、口をゆっくりと開き始める。
「な、何をする!? 離せぇっ!」
焦燥たっぷりの拒絶の声を上げるケトゥスを尻目に、アルデバランの口は不自然に大きくなっていき、口角が裂けて顔が盛り上がり、巨大な爬虫類にも似た生物へ変わっていく
「やめろぉっ!」
ケトゥスが絶叫を上げたとき、
――バクンッ!
アルデバランの不自然に大きな口がケトゥスを飲み込む。断末魔の叫びをあげるケトゥスをアルデバランは何度も咀嚼していたが、突如己の胸を押さえて蹲り、苦しみ始める。
アルデバランの全身の皮膚がボコボコと波打ち、忽ち真っ赤な繭のようなものを創りあげてしまう。
リスは地面に降り立つと両腕を掲げ、
『これで、『
たっぷりの歓喜の含有した叫び声を上げたのだった。
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