第45話 戦闘部族の説得(1)
防衛はアイテムだけでできるものではない。あくまで守るのは僕ら個人の力によらねばならない。それは前回の騒動により、皆十分すぎるほど身に染みていた。それに、一定の数がいなければ、これからやる大規模な開発などできるわけもない。
故に、まず優先的に他部族への同盟関係をもちかけるべく、今、キージ、チャトとともに豚頭族のハイオーク族の集落を訪れている。
石でできた城の中で、僕らは豚の頭部をもつ鎧姿の魔物たちと対峙していた。
「おいおい、お前ら、たかが、猫風情がこの俺たちに手を組めだとさ? 笑えよ?」
どっと笑いが巻き起こるが、その額に張り付く青筋から皆、怒り心頭であることが伺われた。
まっ、シープキャット族はこのノースグランドでも弱小種族。いわば格下だ。その格下から対等な同盟関係を求められれば、人族でもプライドの高い戦人なら怒りもする。だからこそ、彼らを従わせる方法は限られている。こんな戦の腐った方法について熟知している以上、僕は冒険者の中でも傭兵に近いクエストを受けていたのかもしれない。
「対等が嫌なら、従属しかないが、それでもいいのかい?」
「ギル、ちょっと待て!」
隣で縮こまっていたチャトが血相を変えて僕の肩を掴んで制止の声を上げる。
「従属……だとぉ?」
ひと際大きな褐色の肌のオークが石の椅子から立ち上がり、脇に立てかけていた大鉈を掴む。他のオークは皆、肌色であり、赤に近い褐色の肌はこの魔物だけ。きっと、ハイオークの中でも異質な存在なんだと思う。
「ああ、このままではどのみち、ノースランドの全魔物は滅ぶ。甚だ不本意だけど、従えないのならここで潰させてもらう」
これはある意味真実だ。現在進行中の北の魔王アルデバランは、仮にも四大魔王の一角に名を連ねるもの。勇者という怪物を異界から呼び寄せるまで人類は四大魔王という圧倒的強者に長く劣勢だったのだから。
それにしても己については何も知らないのに、この世界の知識だけはやけに細かくある。それにどうにも強い違和感を覚えてしまう。
「猫風情がよく言ったぁ。褒美はその首をちょん切って、雨風に晒してやるっ!」
今の僕は能力により外見をキージたち――シープキャットの青年風に変えている。
いくつかの調査によって判明した僕の能力は、『変質』。思い描いたものになる力といえばよいか。ただイカレていたのは、外見と中身の両方を思い描いたものに変えることができたこと。しかも、外見はそのままで中身だけ変えるということもできた。以前の盗賊どもの襲撃ではこの中身の身を変えて上手く撃退したんだと思う。
もっとも、これにはいくつかの条件がある。中身は僕が以前会ったことのあるものにしか変えることができない一方、外見はそんな縛りはなく、まさに僕のイメージ通りに作ることが可能。この能力で猫型の顔に変えているってわけ。
ほらさ、流石に人間よりは同じ魔物のシープキャットの方が受け入れやすいだろ?
「御託はいい。来いよ!」
左の掌を上にして手招きをして挑発すると、褐色の肌のオークの顔面にプツプツと幾つもの青筋が沸き上がり、
「いい度胸だっ! お望み通り、ぶっ殺してやるっ!」
僕に向けて一歩踏み出すと、鉈を振り上げた鉈を振り下ろしてくる。
豪風を纏って迫ってくる大鉈を腰の長剣を抜き放つとそれで受けて力を流すと同時に反らす。
「んなっ⁉」
驚愕に目を見開く褐色肌のオークの懐に踏み込むとその長剣の柄で殴りつける。
褐色肌のオークの全身がくの字に曲がり、壮絶に吹っ飛んで壁に背中から叩きつけられる。
(やっぱり、彼以外なら問題ない)
色々試してみたが、あの黒髪の少年に変質する以外で動けないほど身体が疲弊することはなかった。今も僕の理想とする剣の師に中身を変質させているが、まったく負担なく動かせている。
「……」
褐色肌のオークは立ち上がり、重心を低くする。奴から慢心が消えている。どうやら本気になったようだ。ここからが本番ということだろう。
今の立ち振る舞いをみれば一目瞭然だ。彼は強い。舐めてかかって容易に勝てる相手では断じてない。今の僕にも負けられない理由がある。だから――僕も剣を構え、石床を蹴り上げた。
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