第42話 最低野郎の記憶の残滓
――伝え聞くところによればそれは、ルーがゴブーザたちと出会ってから丁度数か月前の出来事……。
……討伐図鑑からの通告――ギルバート・ロト・アメリアの正当眷属の仮登録により、封印中の記憶の一部が開放されます。
――記憶5%解放
そこは絢爛豪華な一室。そこのこれまた豪奢な椅子を蹴り上げて僕は憤慨していた。
――僕は次期国王だぞっ! 本来、下郎が口を利くことすら許されるものではないんだっ! それをあの無能者めッ!
赤子のように滑稽に地団駄を踏む僕に、筋骨隆々の無精髭を蓄えた青髪の男は憐れむような視線を向けると、
――王子、まだ王選は開始されたばかり。まだ、貴方は次期国王ではありませんよ。
僕にとって最大の拒絶の言葉を吐く。
――アル、貴様、僕があんな出来損ないどもに負けるとでもいいたいのかっ⁉
青髪の男、アルは小さなため息を吐くと席を立ちあがる。そして――。
――ええ、今のままでは真っ先にこの王選から脱落します。
――僕が負けるッ⁉ あんなクズどもにかッ⁉ 不快な事をいうなッ!
――王子、現実は元より思い通りにはいかぬものです。誓ってもいいが、王子がこのまま己を顧みなければ、貴方はきっと魂から後悔します。
アルは噛みしめるように断言する。
アルは僕の剣の師であり、今まで苦言を述べることはあっても、こんな僕を全否定するような発言をすることはなかった。
――僕が後悔するだとっ!? 僕が何に後悔するってんだッ!
アルは瞼を固く瞑って首を左右に振り、
――いや、違うな。後悔してからでは遅れだ。
貴方は既に色々なものを裏切っている。姉君を裏切り、己の命に付き従った家臣を見捨てた。非情だけの主には誰もついてきやしない。
友を見つけなさい。今の腐りきった空っぽの貴方でも手を取り合ってくれる心許せる仲間を。
憐憫の表情で王族の僕に対する最大級の侮辱の言葉を吐く。
――アル、貴様……
その諭すような言い方に、怒りが沸々と沸き上がるも、
――私が言えることはここまで。ここから先は王子自身でつかみ取っていくしかない。
願わくば、それが王子にとって幸ある未来であらんことを……。
そう寂しそうにそして、自らに言い聞かせるように呟くと背を向けて部屋を出て行ってしまう。
場面が変わる。
――僕の騎士に無能などいらぬ。殺せ!
――テ、テトルは王子の昔からの従者ですぞ!?
側近の年配の騎士からの必至の問いかけに、
――だからどうしたっ? 役に立たない従者ほど足手まといなものはいないっ。もう一度いう、殺せ!
強い口調で繰り返す。
側近の騎士は悔しそうに下唇を噛みしめると、一礼もせずに部屋を出て行ってしまう。
――いいんですかい? 聞くところ一人は昔からの家臣なんでしょう?
最近雇ったばかりのどじょう髭の元傭兵からの疑問に、
――僕は不要な駒を持つつもりはない。それは貴様らも同じことだ。
当然の事実を即答する。
――怖い、怖い、王子は怖いお人だ。だが、それでこそ王に相応しい。
どじょう髭の男は胸に手を当てそんな僕にとって当然のことを口にしたのだった。
そこで、視界がぐにゃりと歪む。
そうか、これは夢。どうしょうもなく救いのないクズ野郎についての夢。己を特別と信じて疑わない無様な道化。
滑稽だ。本当に滑稽だ。だってそうだろう? 周囲を価値のないと判断して切り捨てたこいつが、実のところ一番この世に必要のない奴だったんだから。
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