第19話 襲撃直前 サドテーラ

 キャット・ニャー襲撃直前


 キャット・ニャーの周囲にはバリケードのような柵が張り巡らされていた。


「ぐひゃっ! 笑えるぜ、魔物ども、こんなもので俺たちの侵入を防げると思ってやがるぅ!」


 薄汚れた頭巾をかぶった男が腹を抱えて笑いだす。


「ホント、愚かぁだねぇ~。俺らを察知したところまでは褒めてやるけどさ、その対抗手段がこれとはさぁ。しょせん、魔物畜生ってことだろうねぇ」


 黒髪を頭頂部だけ伸ばした男も頭巾の男の言葉に顎を引いて同意する。


「猫顔の魔物かぁ。捉えたら少し味見してもかまわねぇよなぁ」


 頭巾の男の言に黒髪を頭頂部だけ伸ばした男はしばし、面食らってぽかんとしていたが、


「お前正気? 奴ら魔物だよ?」


 顔中を嫌悪一緒に染めそう尋ねる。


「だが、女だ。なら、普通、存分に楽しむだろう?」

「あのね、魔物に女も男ないだろう。普通ならしないよ」


 呆れ切ったように肩を竦める黒髪の男に、


「それこそ阿呆だ! 俺たちは盗賊。そんな役得なけりゃ、とてもやってらんねぇよ。この件、明らかにわりに合わねぇしな」


 頭巾の男は吐き捨てるように口にする。


「それには同意かも。報酬も大部分はお頭に持ってかれるし」


 二人は憎悪に満ちた顔をしていたが、


「なあ、お前さぁ、今のお頭どう思う?」


 頭巾の男がボソリと問いかけた。


「……答えにくいことを聞いてくるね。それってどういう意味?」

「今、お前が想像している通りの意味だ。俺たちが忠誠を誓っていたのは病で死んだ前御頭おかしらでその娘のあの女じゃねぇ。違うか?」

「……違わないね。ま、この仕事、そろそろ潮時だし、この件を最後に引退するのもいいかもねぇ。山分けすれば大金が手に入るしさ」

「だったら、邪魔だよなぁ」

「うんうん、邪魔だね」


 醜悪な笑顔でお互い頷いていたが、


「他の奴らには?」

「必要ないよ。みんな、あの女の横暴には心底うんざりしているし、僕らのように考えているはず。行動を起こせば僕らにつく」

「なら、問題は一つだけだね」

「あのシュガーか……」

「奴はあの女以上の報酬を払えばあっさり、僕たちの方につくよ。その道のプロのようだし、その辺はルーズだろうさ」

「オーケー! オーーーケーー! じゃあ、いつ決行する?」

「猫型魔物をとらえてお頭のところに連行したときでいいんじゃね? お頭、シュガーを相当警戒しているんだろうねぇ。都合よくシュガーから距離をとっている」


 各々の顔に濃厚な欲望を張り付かせ、二人はバリケードを破り、意気揚々と魔物の集落へ侵入していく。

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