第36話 最高の肉体となり得る器
【華の死都】エリア5――腐王御殿
時間は少しだけ遡る。
脈動する真っ赤な肉の巨大建築物のやはり真っ赤なベッドの上でサングラスに風船のような体躯の男――腐王が身を乗り出して眼前に映し出された映像を一心不乱に眺めていた。
――お前らはただの卑怯ものだ!
ソムニの決別の台詞が廃墟の建物の中に響きわたったとき、腐王が瞬き一つせずに凝視していたのは、このソムニでもましてやトウコツやタムリでもなく、外で鬼神のごとき力でアンデッド共を駆逐する黒髪長髪の剣士でもなく、石造りのベッドに横たわる美しい金髪の少女だった。
『おお……まさか、まさかぁ、まさかぁぁぁッーーー!!』
腐王は全身を小刻みに震わせて両手をパンパンに膨らんだ頬に当てると、ヒステリックな声上げる。
『まさかぁ、まさかぁ♬』
星、丸、逆三角、四角の頭部を持つ四体の怪物たちがベッドの周囲で踊りながらコーラスする。
『あれはぁ、あの娘はぁ、私のぉ、私のぉぉぉぉ――!!』
サングラスの両目からポロポロ玉のような涙を流しながら叫ぶ腐王。
『あの娘はぁ、腐王陛下のぉ♪』
やはり、周囲の四体の怪物は、一糸乱れぬダンスを踊り、頭部がゾンビの口からでるのが不自然なくらい澄んだ声で歌う。
『最高の肉体となり得る器DEATHッ!』
両腕を広げて歓喜の表情でケタケタと笑いだす腐王に、さらに歓喜の声を上げて踊り狂う四体の化物。
腐王は直後ピタリと無表情になると、ベッドの上に立ち上がって――。
『今すぐぅぅぅ、あの娘をここまで連れてきなぁSAI』
頭部が四角、星、丸、逆三角のゾンビは一礼すると、一斉に姿を消す。
それに満足そうに何度か頷くと、両手を広げてユラユラと身体を揺らして、涙を流しながら、
『アレスに封じられてはや千年、片時も忘れなかった憎しみぃぃぃ――』
憤怒の表情で声をあり上げる。さらに一転、顔を恍惚に染めて、
「――とぉぉぉ、この願ぃ、渇望の玉手箱ぉぉぉぉーー!! この出会いでぇぇ、
再度金切り声を上げたのだった。
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