第12話 試験での一つの波乱

 バベル北部の【華の死都】エリア1


 バベルの都市の北部に広がる遺跡――【華の死都】。ここはアンデッドどもの楽園であり、ハンターギルドとバベルの双方が管理する共同管理区域。この【華の死都】の遺跡は他のダンジョン同様、深さによって難易度が変わり、エリア1~5段階へと別れている。

 その最も浅い領域であるエリア1は、初級のアンデッドどもしからおらず、一般に学生たちや低ランクのハンターにも解放されている区域である。

 この【華の死都】エリア1の隅の廃墟の石造りの建物の中に、二人の男が存在した。


「きひひっ! まさか、この世で一番の無能に敗北する守護騎士様がいるとはなぁ」


 ケタケタと腹を抱えて噴飯する病的にやせ細った男。綺麗に頭髪を剃った男の頭には髑髏の入れ墨が刻まれており、首から不死鳥の刻印の為されたペンダントを下げている。これは【バベルの塔】を卒業した証。

 バベルの塔は入学事態が最難関ではあるが、実際に卒業できるものは1割にも満たない。それほど超難関の最高学府なのだ。その卒業生ともなれば、その実力は約束されたものだ。

 もっともこの男――トウコツは一流の不死術者ネクロマンシーで、塔の教官の地位にありながら、悪趣味な遊びが発覚し、塔を追報されてしまっている。そんなある意味異色な魔導士が彼である。


「笑うなっ! 私は少し油断しただけだっ!」


 今も大笑いしているやせ細った男に、ギルバート王子の守護騎士タムリは、屈辱に身を震わせつつも、怒鳴り声を上げる。


「でもよぉ、その油断で天下のギルバート殿下の守護騎士、クビになったんだろぉ? ご愁傷様様だなぁ」

「まだ、クビなってはいない! あの無能の粛清が済めばすぐに復帰する! 王子はそうお約束してくださった!」

 

 ギルバート王子はカイ・ハイネマンを無事拉致した暁にはタムリを守護騎士の中でも筆頭の守護騎士長にすると約束したのだ。王子は宣言されたことを必ず実行する。要は今回の任務を無事やり遂げればよい、そうタムリは考えていた。

 やせ細った男は肩を竦めると、


「はいはい。じゃあ、そう言う事にしておこう。で、首尾は?」


 強制的に話を本題へと変える。


「実技試験はこの【華の死都】エリア1で実施される。学院内部からの手引きで上手く奴を学生どもから引き放つ。そこを殺せ!」

「俺は報酬さえもらえれば異論はねぇが、他の受験生とやらの命の保障まではできねぇぜ?」

「構わん。少々無茶をしても学院側が握りつぶす手はずになっている」


 やせ細った男はニィと口角を上げると、


「お前ら真正のクズだな」


 至極全うな感想を口にする。


「貴様ぁ、その侮辱はアメリア王国ギルバート王子の――」


 額に太い青筋を立てて反論を口にしようとするタムリを右手で制止し、


「勘違いするな。その手段を択ばねぇやり方、俺的には実に好みだぜぇ。それより最終確認だぁ。俺の領域に入り込んだ学生どもは玩具おもちゃにしいい。それでいいんだよなぁ?」


 やせ細った男は念を押すように尋ねる。


「学院側との折り合いはついている。この件は事故として処理される手はずだ」

「そうかぁ。いいなぁ。久しぶりの宴だぁ。しっかり楽しまねぇとなぁ……」


 首をコキコキと動かし、顔を真っ赤に欲望一色に染める。

 

「遊びは結構だが、わかってるだろうな?」

「あー、承知している。カイ・ハイネマンを殺さず案山子かかしにしてお前に引き渡せだろ? 無能の餓鬼一匹、大して興味ねぇよ。契約はしっかり守るさ」


 右手を上げるとやせ細った男は廃墟となった建物を出て行く。


「絶対に失敗は許されん」


 ギルバート殿下は決して甘い方ではない。失敗したら破滅。それは間違いない事実。タムリは不退転の決意でその言葉を絞り出し、歩き出す。



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