第13話 幼馴染との昼食
適正試験が終了し、次の実技試験まで間があったので、昼食をとることにした。
木陰で九尾に作ってもらった弁当を食べ終えたとき、
「カイ」
声をかけられ顎を上げると、懐かしの再開を果たした幼馴染が長いブロンドの髪をかき上げながら、佇んでいた。
「おう、ライラも昼食か?」
今ならきっと言葉遣いも直せるかもしれんが、今更感が半端じゃない。このまま行かせてもらうとする。
「うん。隣で一緒に食べてもいい?」
「ああ、生憎私はお前を拒むほど薄情ではないよ」
皮肉に頬を緩めて了承する。
「……」
ライラは私の隣に腰を下ろすと、マジマジと横顔を無言で凝視してくる。
「どうした?」
「やっぱり、カイも大人になりましたのね。男子は少し見ない間に成長すると言いますし、そんなものなのでしょうけど……」
合点がいったようにライラは何度か頷きブツブツ意味不明な台詞を履く。
「それはそうと、ルミネはどうした? 一緒にいなくていいのか?」
「ええ、さっき学院の方に連れてかれていきました。どうも、先ほど召喚適性試験の件で話があるそうです。お昼ご飯も先方でごちそうになるそうですわ」
あー、そういやルミネは唯一あのコウマとかいう犬科生物に触れる事ができたんだったな。召喚適性試験の成績はぶっちぎりの一位だろう。あとは、実地試験でよほどのポカをやらない限り、それなりのレベルの学院の入学が可能となると思われる。
「そうか」
長くあっていなかったせいだろうか。どうも上手い言葉が見つからない。だから、ただ顎を引いてそう呟いていた。
ライラはクスッと小さく笑うと、皮の鞄から弁当を取り出して食べ始める。
結局会話が弾まなかったのは最初だけ。直ぐにライラ達の最近の動向につき聞き出すことができた。
どうやら、ライラはかなり前から故郷のラムールを出る計画を練っていたらしい。何でも自分がヘルナー家の傘を離れてどこまでやれるのかを試してみたくなったようだ。
確かにラムールは良くも悪くも保守的なのだ。特にライラのような名家出身者は、私のような例外的な者以外、就職、結婚、私生活においてまで厳格な制限が課せられる。この留学はそんな生活に嫌気がさしていた彼女なりの細やかな抵抗という奴かもしれない。
ともかく、ライラが己で考えて選んだ道ならそれだけで価値がある。特に、ラムールの化石のような石頭たちのステレオタイプの押しつけ思想から脱却したのは彼女にとっても行幸だろうさ。
「ところで、カイはなぜ、突然、口調を変えたんですの?」
相変わらず唐突にこちらの答えづらいことを尋ねてくる奴だ。
「う、うむ、少々気分転換にだな……」
咄嗟に返答するも、どうにも上手い答えだとは思えない。そのはずだったが――。
「気分転換……そうですわね。それもいいかもしれませんわ」
ライラはあっさりこの苦し紛れの答えに納得してしまわれた。どうやら、ライラにとって、私のこのしょうもない答えに一定の価値を見出したらしい。
ともあれ、彼女が納得したならそれでいい。これ以上この話題をしても私にとって百害あって一利なし。
話題を変えるべく口を開こうとしたとき、周囲が騒がしくなる。
黄色い声とともに、周囲に女性を侍らせながら金髪の少年が庭を突っ切って歩いているのが目に留まる。
「ねぇねぇ、あれって、ソムニ・バレル様っ⁉」
「えーーーっ!? あの神聖武道会ベスト4のッーー⁉」
「今回このバベルを受験してるって噂で聞いてたけど、本当だったんだ!」
「俺達と同じ歳で、武道会トーナメント入りでしかもその功績で最年少のギルバート王子殿下の守護騎士なんだろ? マジですげぇよ!」
周囲の大人どもが無茶をして運悪く決勝トーナメントまで進出してしまった少年だな。己の意思如何に関わらず、実力以上の評価をされることは、本人とって重荷でしかあるまい。ある意味哀れな少年だ。
金髪少年がこちらに気付くと、歩いてくる。
「やあ、卑怯者の無能剣士君じゃないか。君も此度受験するのかい?」
隣のライラが口を尖らせて反論しようとするが、それを制止し――。
「遺憾ながらな」
苦笑しながら、肩を竦める。
「あまり無様な姿は見せないことだね。同じアメリア人として恥ずかしいからさ」
「うむ、お互いそう願うね」
ソムニはピクッと肩眉を上げるが、微笑を崩さず女性を引き連れて遠ざかっていく。
「カイ――」
形の良い眉根を寄せて発言しようとするライラの頭の上に手を置くと、
「私は大丈夫だ」
かつてしたように安心させるべく語り掛ける。
「あー、お姉さまに近づくなっ!」
騒々しい我儘娘がこちらに全速力で走ってくると、ライラにしがみ付き、丁度コウマを私から守ったように歯茎を剥き出しにして威嚇してくる。
お前は忠犬かと内心でツッコミながらも、立ち上がり、右手を挙げると、
「じゃあな。久しぶりに話して楽しかった。試験頑張れよ」
そう告げると実技試験の試験会場へと移動したのだった。
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