第36話 バベルの思惑
――【
中立地帯にある巨大な
その最上階の一室には四人の男女が一堂に会していた。
「それで、その少年の力は真実なのですか?」
豪奢な木製の椅子にもたれかかりながら女神のごとく美しい金色の髪の女性が半信半疑の顔で三人に尋ねた。女性の耳の先は長くその着用する真っ白のローブの背には金の不死の神鳥の刺繍が施してある。
「それはもう。おっ師様すらも凌駕する武をもっています」
真っ赤なバンダナをした剣士風の男――ブライが右拳を強く握って力説する。
「実際に戦っていますので、それはボクも保障しますよ」
眼の細い黒ローブの男シグマも即座に同意した。
「彼の強さ自体は、ラルフから既に報告を受けています。そういう意味ではなく、もっと根源的なことです。ミルフィーユ、彼の力につきあなたが感じたことを言ってみてください」
金色の髪の女性は、銀髪の少女に視線を向けると静かに尋ねる。
「彼は間違いなく我が国、いやこの世界が遭遇した歴史上最強の
はっきりとした声で言い放つ。
「
ブライが眉を顰めてミルフィーユに尋ねるが、
「はい。ブライ先生の言う通り、私も彼は人間だと思います」
きっぱりとそう断言する。
「うーん、ボクにはミルフィー君の言いたいことが見えないんだけど? それどういうこと?」
シグマの素朴な疑問にミルフィーは口角を上げると、
「先生たちは人の本質とは肉体と心の何れにあると思います?」
そんな意味不明なことを尋ねる。
「面白い事聞くね。ボクら魔導士にとって肉体は所詮、器に過ぎない。魂こそが人の本質。その魂の表出である心が人を定義づけるのさ」
「……肉体と言いたいところだが、人の器にゴブリンの魂が入っても人とは言わねぇだろうしな。俺も心だ」
ブライも顎を摩りながら、返答する。
「私も心だと思います。で? それがどうしたというんです?」
金髪の耳が長い女性が身を乗り出す。その黄金の瞳はこれ以上もうはぐらかすな。そう強く告げていた。初めて目にするタワー長の鬼気迫る様相に喉を鳴らすブライとシグマを尻目に、
「彼の心は人、その器は
まるで歌うようにミルフィーユは断言した。
「要するに彼は少なくとも己を人と思い込んでいると?」
「はい」
金髪の女性は席を立ちあがり塔の窓から遥か下にある地上の風景を眺めていたが、
「使えるかもしれませんね」
そう独り言ちると、三人をぐるりと見渡し静かに口を開く。
この場で紡がれた話により以後、カイ・ハイネマンが渇望する平穏な人生設計は大きく狂っていくのである。
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