第33話 ハンター昇格通告
バルセのハンターギルドハウス――ギルド長室
「本当にいいんですか?」
目の前に積まれた白金貨の山を目にして、躊躇いがちに尋ねる。
「構わん。ハンターは成果絶対主義。受けて当然だ」
これは間違いなく裏がある。正直、この御仁だけには借りを作りたくはない。
単刀直入に言おう。目の前の小柄なマッチョにも一度会ったことがある。これも過去に祖父に対面させられたという経緯だが、アーロン・カイエンとともに今の私にとってどうにも苦手な御仁の一人だ。
神聖武道会の賞金も出るし、信条的には辞退したいが、それをすればこの御仁の顔を潰すことと同義。ハンターとして以後無難な生活設計を計画している私としては、ハンターの英雄的存在のこの御仁に睨まれるわけにもいかぬ。
「では、ありがたく頂戴いたします」
100枚の白金貨を袋の中に入れて、それを掴むと、
「今回の件でお主のハンターランクはEからDへと上がった。ほれ、これが変更後のギルドカードだ」
ラルフが先ほど預けたギルドカードを投げてくる。
「はあ? 私は昇格など希望しちゃいませんが」
確か、説明では昇格の申請があって初めてギルドが審査する仕組みだったはずだ。だからこそ、安心していたわけではあるのだが。
「ハンターランクの上昇は、評価を満たす限り、Cランクまでは支部のギルド長に独自の裁量権がある。申請などそもそも不要じゃから安心しろ」
「ちょっと――待ってください!」
冗談ではないぞ。これ以上変な地位に雁字搦めになれば、今後の私の世界中をめぐる気長にスローライフの旅が頓挫しかねん。
「うむ、一ランク
このおっさん、何言っていやがる!
「そういう意味じゃなくてですね――」
ギルド長は喜色満面の顔で反論を口にしようとする私の右肩をポンポンと叩くと、
「喜べ、ハンター内でのお前の地位もちゃんと、ローゼ王女と話し合っている」
そんな不安しか覚えない戯言を口走る。
「あのですね――」
「あと、王女の要請で今回の事件について一切の他言無用も徹底させておる。それがお前の希望じゃろ?」
「それはそうですが――」
「お前も疲れているだろうし、ゆっくり休むがいい」
ギルド長は私の言葉など歯牙にもかけず、一方的に捲し立てると立ち上がり、恵比須顔でスキップしながらも部屋を出ていってしまった。
なんだ、ありゃ? 流石にこんな状況は想定外もいいところだ。あの
だが、他言無用が徹底されていたのか。どうりでこの件についてアルノルトを始め、尋ねても誰も口にしないわけだ。ま、情報が洩れぬこと自体、良しとすべきだろうさ。
気を取り直して部屋を出て一階へいくとロビーには二人の男が敵地に足を踏み入れたような険しい顔で私の前に立ち、
「今回この街を救ってくれて感謝するッ!」
「救っていただきありがとうございます!」
深く頭を下げてくる。目つきの悪い金髪の男がライガ、フードを被っている黒髪に短髪の男がフックだったか。
「成り行きだし、礼など不要だ」
あの雑魚魔物を殺したのは、私なりの理由があったから。私は何の理由もなくただ他者を救うほど正義感に溢れてはいない。私は正義の味方ではないのだ。己の納得がいく理由がなければ今回も戦ってはおらぬ。
「いや、俺のつまらねぇ意地で仲間を失い、この街まで危険にさらした。挙句にその後始末を俺があれだけ公然と侮辱したあんたに押しつけちまった。こんなの絶対に許されねぇだろ?」
俯き気味に全身を小刻みに震わせる。
そうか。この若者は他者から責めてもらいたいのだな。
あの深域とやらへの侵入が明確に禁止されていなかった以上、ハンターであるライガたちが遺跡に足を踏み入れたとしても責められることではない。あの雑魚魔物どもが街を襲ったのもただの結果論だ。だから、誰もライガ達を責めない。それがこの若者はきっと許せないのだろう。だが、そんなものはただの自己満足にすぎぬ。
「甘えるな。お前の仲間が死んだのはお前たち二人が弱かった。ただそれだけだ。悔しかったら強くなれ。それが死んでいったお前の仲間に報いる唯一の道だ」
踏ん張れるかどうかは、あとはこの二人次第だろう。
二人に背を向けると私はギルドハウスを出た。
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