第28話 ハンターギルドからの依頼

 拳を合わせて気付く。新米剣帝と同様、ザックは天賦の武の才を持つものだった。才が皆無の私としては才能の塊のようなザックとの戦闘は殊の外、楽しく久々に心が躍っていた。

 集中していたせいか、己の名が呼ばれるまで気付かなかった。眼球を音源に向けると、二人の男が地面に額を押しつけている。

 この者達は覚えがある。私にちょっかいを出してきたハンターだったな。目つきのキツイ金髪長身の男、ライガは私を明らかに蔑視していた。そのライガがこれほど屈辱的な態度を私にとる状況か。相当面倒なことになっているようだな。


「何があった? 詳しく話せ」

「お、俺のせいで、仲間がッ! 街がっ!」


 ライガは心の高ぶりと焦りを抑えきれない乱れた声色で捲し立てると、ボロボロと涙を流す。

 興奮して上手く話せぬライガに変わり、隣のフードを頭から被っている黒色短髪の男が、


「俺達の迂闊な行動が原因で、バルセが危機に瀕しています。どうか、力を貸してくださいッ!」


 簡潔に補足説明してくれた。

 バルセの危機か。あの街にはアルノルトやあの奴隷の少女がいる。見捨てるのは論外だ。

 やれやれ、本当に厄介ごとばかり舞い込むものだ。

 次いで、長い金色の髪を後ろで一本縛りにした女性が息を切らしながらも円武台の傍までくると、


「カイ・ハイネマンさん、バルセのハンターギルドのマスター――ラルフ・エクセルからの【地域級】の魔物討伐の協力要請です。直ぐに私達とバルセまで来てください!」


 大声で叫んだ。この女、バルセのハンターギルドの受付嬢、ミアといったか。

ミアの言葉に会場にざわざわと林がゆれるような騒めきが走る。


「私は本試合を棄権する」


 アーロン老に簡潔にそれだけ告げると円武台から降りて、三人の所まで行く。


「いくぞ。事情の詳細が知りたい」


 強くそう指示を出し歩き出す。


 武道会場前にはローゼたちがスタンバっていたので、ともに近くの広場へと向かう。

 アーロン老とザックもついてきたが別に隠すようなことでもないし、拒否はしなかった。

 広場で三人から話を聞く。


「そうですか。バルセに深域の魔物が……」


 ローゼが厳粛した顔でそう独り言ちる。

 どうも、ライガ達のメンバーが、不審な人物から渡されたアイテムを用いてシルケ樹海の深域にある【太古の神殿】へと調査に入るが、トラップにかかり、ライガとフック以外全滅。その後、バルセに深域の魔物が襲来したようだ。

 私に支援を要請したのはきっとアルノルトだろうな。あの御仁、私を必要以上に高評価しているし。


「で? アスタ、お前、何か知っているか?」


 まだ関わって日もないが、アスタは妙に物知りなことがある。


「生憎、吾輩はここがかもまったく知らされていないのである。よって検討もつかぬのである」


 偽りを述べている様子はない。というかこの件に関して多分一切の興味がないと思われる。こいつ直ぐ顏にでるのな。

 隣のファフを見ると私の服にしがみ付いてウトウトしている。そういえば現在お昼寝の時間だった。この調子ではファフに尋ねても無駄か。


「ともかく、バルセまで戻るしかあるまい」


 あとはそのあと考える。まあ、なんとかなるだろうさ。


「で? どうするんだ。ここからバルセまで昼夜馬車を走らせても軽く一昼夜と半はかかる。今から行ってもおそらく間に合わねぇぜ?」


 ザック、お前、絶対面白がっているだろ? しかも介入する気満々ときた。そして――。


「うむ、そんなことはザックの小童に指摘されるまでもなく、ぬしほどの者なら百も承知だろう? 儂もそこは興味があるなぁ」


 アーロン老も真っ白で長い顎髭をしごきながらも興味津々に口にする。


「カイ?」


 懇願の視線を向けてくるローゼに、


「わかっている」


 深いため息を一つ吐き、アイテムボックスから【討伐図鑑】を取り出すと該当のページを開いて【解放リリース】する。

 眼前に生じる巨大怪鳥。700階層のフロアボス――フェニックス。神鳥と同じ名を詐称する不死アンデッドのイタ鳥だ。餌を強請ねだる雛鳥のごとく不死不死と五月蠅かったが、文字通り死ぬまで切り刻んでやったらあっさり昇天してしまった根性なしの怪鳥である。


『おぉ、恐ろしくも偉大なる御方おんかたよ。何か御用でありましょうか?』


 首を地面に接着せんばかりに垂れる自称神鳥フェニックスを視界に入れて、


「マジで【神々の試煉ゴッズ・オーディール】の全権限を乗っ取ったのであるか!? やることなすこと絶対にまともじゃないのであるッ!!」


 アスタが脂汗を垂らしながらも、親指の爪をガチガチと噛みながらもブツブツと呟き始めた。アスタの奴、いつも以上に気持ち悪いな。うん。放っておこう。そうするに限る。

 というか、お眠な目を擦っているファフ以外、全員、皆大口を開けて無言で見上げるのみ。


「私の指示する場所まで、乗せていってくれ」

『我らが御方の仰せのままに』


 私達の全身が浮遊するとフェニックスの背まで移動し、着地する。フェニックスは風と火と再生を司る。その風の力だろう。

「ではここから北への街まで向かってくれ」

『御意!』


 自称不死の怪鳥――フェニックスは翼をはためかせて浮き上がり、超高速飛行を開始した。


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