第8話 初めての食料
この空間にも昼夜の区別はあるようで、あれから7回昼夜を繰り返す。同時に、僕の甘い期待は見事に打ち砕かれてしまう。
しっかり、空腹はあるし、エリクサーでも腹は膨れない。鞄の中に僅かにあった黒パンはとっくの昔に尽きている。
腹が減った。腹の皮がくっつきそうだ。
あれから何度もここら一帯を捜索しているが、食べられそうな草は一本もない。あるのはあの毒虫だけ。
いや、まだだ。あの毒虫はいたんだ。まだこの土壌の下に食べられる蟲の幼虫くらいいるかもしれない。まだ動けるし、もう少し頑張れるし。
さらに15日経過する。【絶対に壊れない棒】で土を掘ったが結局、蟲一匹いなかった。既に穴を掘る元気もない。もう限界だと思う。あと数日何も食べなければ僕は死ぬ。そんな気がする。
何よりこの強烈で抗うことのできぬ飢餓感だけで、真面な思考もできなくなっている。
だからだと思う。こんなバカなことをする気になったのは。
「くはは! どうせ食べなきゃ死ぬさ! これ以上この地獄が続くくらいなら、一思いに死んでやるっ!!」
一飲みできそうな芋虫を右手に持つ。鑑定では、この芋虫は【堅毒蟲――胃酸で溶解し、食すれば竜ですら一瞬で殺すことができる猛毒を持つ毒虫である。また、蟲は高濃度の栄養を含有する】となっていた。
食べれば竜でも死ぬ毒虫だ。このままでは確実に死ぬ。だから、木のコップにエリクサーを注いでガブガブと飲み欲し、その作業を繰りかえす。お腹がエリクサーでちゃぽちゃぽする中、僕は【堅毒蟲】を丸のみした。
ドクンッ! ドクンッ!
突如、マグマのような耐え難い熱がお腹の中から吹き出てくると、視界が真っ赤に染まる。
『弱毒耐性の獲得条件を満たしました。スキル――【弱毒耐性】を獲得いたします』
その無機質な女の声とともに、僕の意識は失われた。
「死んで……ない?」
頭はガンガンするし、壮絶に気持ちが悪いが、一応生きてはいるようだ。
直ぐに、エリクサーを飲むと嘘のように頭痛とムカつきが取れる。そしてあれほどあった飢餓感も嘘のように消えている。
最後の女性の声は、確か【弱毒耐性】といっていた。
―――――――――――――――――――――
・スキル――【弱毒耐性】:弱い毒に耐性を持つ。
・スキル獲得条件:致死量の1000倍以上の量を有する生物を食べても生存していること。
・ランク:初級
・ランクアップ条件:致死率の1000倍以上の毒を有する生物を100匹食べても生存していること。
―――――――――――――――――――――
弱毒耐性か。あの毒虫を食べて、エリクサーで生き残って獲得したんだろう。
毒耐性のスキルなど聞いたこともないが、そもそも、エリクサーという万能薬がなければ、致死量の1000倍を有する生物を食べて生存していられるはずがない。それはそうかもしれない。
ともあれ、毒虫一匹食べただけで、腹は膨れてしまった。これで当分の間はあの飢餓感から解放される。最もあの毒虫が尽きればまた同じわけだけど。
あれから、丁度100日が経過した。弱毒耐性を獲得したせいか、エリクサーさえ飲んでいれば、気絶までしなくなっている。まあ、ムカつきと頭痛はすごいわけだけど。
そして、遂に【弱毒耐性】のランクアップの条件を満たし、【毒耐性】を獲得した。
―――――――――――――――――――――
・スキル――【毒耐性】:毒に耐性を持つ。
・スキル獲得条件:致死量の1000倍以上の毒を含有する生物を100回食べても生存していること。
・ランク:中級
・ランクアップ条件:致死量の1000倍以上の毒を含有する生物を1000匹食べても生存していること。
――――――――――――
エリクサーを飲んで食べてみたら、頭痛や胸焼けもなくなっていた。
そして、この100日で結果的にわかったこと。それはあの毒虫――堅毒蟲は食べてもまったく減らないってことだ。単に繁殖力が異様に高いのか、それともこの場所に不思議な力が働いているのか何れかはわからないが、一定の数が常にこの場には存在している。あの芋虫が蛾や蝶になって繁殖しているようにも思えないから、後者だろうけども。
こうして【堅毒蟲】は僕が生存するにつき必要不可欠な食糧となったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます