闇夜

五十嵐文人

序論

 闇を想像してほしい。

 目をつむったような感覚とは違う。視覚、聴覚、触覚……全てが、何もない感覚である。例えるならば、肉体が死んだときの魂の行き着く先、だろうか。

 この話を友人に語ったところ

「それはつまり、寝ている時の感覚と似ているのではないか? 寝ている時は時間の感覚も肉体の感覚もないだろう。夜に落ちる瞬間があって気が付けば朝になっている」

 決め付けるかのように、彼は続けた。

「そういったが闇ってものじゃないのか?」

 彼の得意げな顔に気分が落ち着かなくなってしまった私は、「そうかも、そうだと思う」と、否定とも肯定ともどっちつかずの答えを告げた。

 彼の言いたいことは理解はできる。寝ている時、即ち夢の中とは自身の自由が効かない怖い場所だ。しかし、全くの闇だろうか? いいや、違うだろう。その脳内とも形容できる不可思議な空間には、少しばかりの希望が残っている。

 大体、行き着く先が完全な闇だと知っていたら、私たち人間は眠れるのだろうか。私ならば、眠ることはできない! それはとても勇気のいることだから。


 話は少し変わるが、40%の人間は「人生が退屈」だと考えているらしい。私もその40%の中に入るのが事実だ。社会でできる大概のことは経験してしまった。次第に身体は慣れていき、刺激のある歓楽を求めてしまう。それはかもしれない。そうは思わないか? ……そうは思わないか?

 そうして、私は真夜中の街を散歩するのであった。静かで暗い街は、昼よりも幾ばくか心地よいものである。

 夜とは、太陽の光とは反対側に地球が在る頃に起きる現象だ。しかし、地球は太陽から逃げられているのだろうか。暗い夜は闇に見えても、その裏側では光が漏れている。私たちに似ている。

 暗い夜とは限りなく闇に近い感覚なのだ。信じて欲しい。


 私が今から伝えるのは、ある闇夜の出来事だ。

 終わりもなく、何もない。広がるばかりの黒色、夜であり、闇を見たあの日の出来事だ。

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