02

 無線。がりがりという音。


「はいどうも。廾希きょうすけです」


『管区通信担当です。そちらに、熱源が3つ。接近しています。おそらく車両』


「車両3台了解。どっちから来ます?」


『それが、電波反射加工のために判別できません。ヘリの温熱感知サーマルでかろうじて確認できた程度です』


「了解。3台ですね」


『管区から総監以下特別部隊を編成中です。到着まで逃げ切ってください』


「増援了解。無線はオープンにしておきますが、よろしいですか?」


『確認します。コードはアルファ3番をご試用ください』


「アルファ3了解」


 無線。閉じられて、再び開かれる。


「敵車両3台。方向不明。増援が来るまで逃げろとさ」


「了解」


 アクセル。さらにもう一段階、踏み込む。


「さあ、日付まで四時間。逃げますよ」


「おまえのハンドル捌きが頼りだぜ、十五才」


 右に曲がる。


「来たな」


 相棒。後ろを確認しながら、距離感を測っている。


「真っ黒だが、2台。300メートルぐらい離れてる」


「意外と近いな」


「暗くて分かんねえ。熱源探知に引っ掛かったってことは、飛び道具か何かあるんだろうな」


 また、右に曲がる。


「おまえ、右にしか曲がんねえなあ」


「右折が俺の切り札なんだよ」


「そうですか。まあ逃げられるならなんでもいいぜ。飛ばせ飛ばせ」


 閃光。


「おっ」


 ハイビーム。


「姫様、屈んでシートに隠れていただけますか?」


「はい」


 後部座席の女が隠れる。


「ハイビームじゃねえぞ。座標確認の広域レーザーだ。撃ってくる」


 ハンドルを切る。


 爆発音。


「おうおう。誘導弾だ」


「撃ち落とせないか?」


警察雑魚拳銃ぽんこつサクラしかねえぞ。車両にダメージ与えんのは無理だ」


「運転はできるが、誘導弾逃げるのがめんどい」


「しかたねえな。新婚の力見せてやるよ」


 助手席の窓が開く。


 へろへろとした銃撃音。


「弱そうな音だなあ」


警察拳銃サクラなんだもの」


 警察の覆面車両だから、サクラが置いてあった。それだけ。


『総監より逃げている車両へ。爆発音を確認した。生きているか?』


「廾希です。生きてます。車両2台に追われてます」


『いま街を出た。どこだ?』


「どこなんだここ?」


「街の外れ。環状から外れて都市部への幹線に入った辺りだ」


「だそうです」


『遠すぎるな。街のほうに寄ってこれないか?』


「善処します」


 ハンドルを切る。右に。


「おっ」


 ハイビームの光。少しだけ、和らいだ。


「当たった当たった。車両のライトに。サクラでも狙えば当たるんだなあ」


「誘導弾も半分になるのか?」


「たぶんね。でも誘導切ってロケット弾頭で撃ってくるよ」


「わかった」


 アクセル。これ以上は速度が出せない。


「次はタイヤかなあ。当たるかなあ?」


「当てろよ。新婚の力で」


「下ネタか?」


「どこがだよ」


 幹線をひた走る。


「なんか、落ち着いていますね、おふたりとも」


 後部座席の女。シートに横になって、お行儀よく頭を守っている。


「まあ、そうすね。こいつが運転してる限り無敵なんで」


「俺かよ」


「集中しろよ十五才。あ、知ってますか姫様。この十五才、SNSで知り合った顔も知らねえ女を追いかけてるんですよ」


「おいおまえ」


「なにそれ。知りたいです」


 姫様。食いつきはじめた。


「なんか、SNSで匿名でしかお互いを知らなくて。なんか同じ学校らしいってのは分かってるんですけど、いまだに見つけ出せてねえんすよこいつ」


「なんか青春な感じしますね?」


「いや見つからねえんだよまじで。ほんとに」


「憧れるなあ。わたしの恋人はそういうロマンチックなの何もないので」


「へえ。そうなんすか」


 派手な爆発音。


「お。おおお。1台こわした」

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