ライトロード・コンクルージョン (15分間でカクヨムバトル)

春嵐

01

 夜。


 街の外郭を囲む、環状道路。


 ひたすらに、飛ばす。


「今のところは、大丈夫だな」


「ああ。静かなもんだ」


 助手席の相棒。くつろいでいる。


 今日の夜。日付が変わるタイミングで。上場の公開と株式の公募が始まる。大々的な報道がなされるはずだった。


「しかし、まあ、証券中抜きからの銀行とわるだくみしてプールなんて。ばかがばかと組んでばかさ加減が増したようなものだなあ」


 見た目は、普通の鉄鋼会社。


 その内面は、官邸側から外国に武器を生産、横流しする戦闘商人会社ただのブローカー


 依頼は、官邸からのものでもあった。霞ヶ関は、一枚岩ではない。外国に武器を流して利権の拡大を狙う派閥と、外国に国債を流し込んで金の海に溺れさせる派閥がやりあっている最中。


 街を守るにあたって旨いのは、国債派だった。なんせ、大臣がついている。街の地盤から選挙で当選していた。それを狙われて、鉄鋼会社の生産工場がこの街の郊外に造られようとしている。


 街を守る者として、武器工場は容認できない。戦闘が発生した場合、軍需関係のある地区は優先して狙われる。


「無線使うぞ」


 隣の、今回の相棒。普段は、普通に街を守っている。どうやら何かあったらしく、死なないんだと言っていた。ちなみに新婚。


「こちら廾希きょうすけ。管区さん、どんな感じですか?」


『対向も順行も車両なし。上空も警戒しているが大丈夫だ』


「了解でえす」


 何も異常はないらしい。


「はやく帰りてえなあ」


「新婚だもんな、おまえは」


「嫁のいるおふとんが恋しい」


 助手席を蹴った。くつろいでいた相棒が、窓に顔をぶつける。


「なにすんだよ」


「後部座席に若いお嬢さん乗せてんだぞ。繊細な発言は慎め」


 後部座席の女。


 こいつを、とにかく日付が変わるまで守り通さなければならない。


「わたしのことは気にしないでください」


「ほれ。お嬢さんも言っとるぞ。おまえだけ繊細な気分になってんじゃねえか」


「うるせえ」


「お嬢さんというのも、やめていただけるとうれしいです」


「なぜですか?」


 後部座席。女の顔を確認する。化粧のなされた、整った顔。


「今年、三十になるので」


「は?」


 驚いて、ハンドルを切るところだった。


「あはは。ずいぶんとお若いですねえ」


「まじかよ」


「じゃあ、お嬢さんじゃなくて姫様だな」


 もう一度、後部座席を確認する。女。三十になるのか。


「お前の二倍だってよ」


「えっ」


 後部座席。驚いた声。


「十五才、なのですか?」


「ええ、まあ」


「免許は官邸おあつらえの特別製なんで、運転センスはありますよこいつ。そこは安心してください」


「いやあ。俺の二倍かあ」


「人は見た目によらねえなあ」


「ええ。本当に」


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