Interlude.1
第10話 いつもいつでも、世界は少女にクソッタレな選択を迫る。
「
「マジマジ。もうバッサリと」
「それでサボりとかウケるー。大草原なんですけどー」
「まあ正直ウザったかったし? ざまあすぎじゃね?」
「マジそれ!」
下品な笑い声が響き渡る。
ゴールデンウイーク明けの昼休み。そこは人気のない空き教室の一角だった。
数人の決してお行儀のよくない女生徒たちが荒っぽく机に腰かけている。
そこから少し離れた椅子にちょこんと、わたしは座っていた。なるべく話題に挙がらないように、話を振られないように、身を小さくして。味を感じないお弁当をつついていた。
今日もわたしは空気を演じ続ける。そうすれば自分に危害が加わることはない。自分に矛先が向かない限りはそれでいい。それで誰かが傷つけられたって知ったことではない。誰だって自分が一番大切なのだから。
誰かの犠牲の上に立って、誰もが生きているのだ。
『――――えー、こほん。2年A組、甘党翡翠くん。今すぐ生徒会室に来てください。繰り返します。2年A組、甘党翡翠くん……』
「え……」
不意打ちだった。
自発的に言葉を発したことなどないこの場所で、思わず声が漏れる。
――甘党翡翠。
確かに、その放送はそう言っていた。
(彼が、登校しているの……?)
その名前は知っている。忘れるはずなどない。
なぜ、こんなにも胸が痛むのだろう。
他人なんて、どうでもいいと切り捨てて生きてきたはずなのに。
痛くて。苦しくて。悲しくて。痛くて。とてつもない吐き気に襲われた。
そして繰り返されていた放送が終わる。
「甘党? なんか聞いたことあるようなー。いやウチ甘党じゃないけどー」
「リサちん、甘党ってあれっしょ? あの、なんかジメジメしてる陰キャ。中学ん時遊んでやったじゃん。忘れるとかひどー」
「んー? ああ、なーんか思い出してきた。甘党翡翠。なーるほどー? 面白そうじゃん?」
「うわー悪い顔。リサちんマジ悪人~」
「なーに言ってんの。ちょーっとだけ遊んであげようかなって思っただけじゃん? 知らない仲でもないんだし。ねぇ?」
初めて、彼女たちの視線がこちらへ注がれる。何か、ドロリとした異物を頭にぶっかけられたみたいな気がした。
身体が震えた。喉元まで押しあがって来たものを無理やり飲み込む。
人生には、大きな選択を迫られることがある。
進路、就職、その他にも色々。人生の岐路には数々の選択が待ち構えているのだろう。
今まさに、選択を迫られようとしていた。
残酷で、理不尽で、クソッタレすぎる選択が襲い掛かってくる。
(――――ああ、わたしはまた間違えるのかな)
そんな資格はないと知っていながらも、瞼の裏に懐かしい彼の顔が浮かんだ。
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