カノジョに裏切られた引きこもりの俺を甘々の美少女たちは優しく迎えてくれました。〜幼馴染と始めるコイビト探し〜
ゆきゆめ
Episode.1
第1話 幼馴染(下着姿)は添い寝している。
「へ……?」
重たい瞼を開くとその先に映るのは女の子の寝顔。鼻息がこそばゆいほどの近さで同世代の可愛らしい少女が添い寝していた。
その顔を僕は当然知っている。さすがに、知らない女の子が隣で寝ているなんていうトンデモ展開はない。
隣で眠っている少女は最近になって再会したたった一人の幼馴染――
心の動揺とは裏腹に自然と、その顔に見惚れてしまう。整った顔立ちだ。長いまつ毛に、さらりと目元にかかる桃色の髪。そして何よりも視線を引き付けられてしまうのが、すぅすぅと寝息を立てる小さな口。ピンク色の綺麗な唇。
「え、なにこれ……なんで?」
ベッドから起き上がろうとするが思うように身体が動かなかった。どうやら優月の両腕にがっちりとホールドされているらしい。抱き着かれているような形だ
さらに腰へチカラを入れて抜け出そうと試みると、優月が寝言のようにゆったりと普段よりいくらか間延びした声でつぶやく。
「う~、離れちゃ、ダメ~。ぎゅ~~~~っ」
「うわっ、ちょっ!?」
グッと引き寄せられ抱きかかえられた僕の頭は優月の胸元へとダイブした。「ばふん」、いや「ぽよん」だろうか。ふくよかなその胸はベッドなんかよりもずっと柔らかくて心地よく、そんな擬音が聞こえた気がした。
「もっとも~っと、甘えていんだよぉ?」
寝言のように、まったりとした口調で優月が囁く。
異性特有の甘い匂いやシャンプーのような香りが鼻腔をくすぐって、いよいよもって動揺は最高潮を迎えた。異性への免疫などあるはずもない童貞には朝からいささか刺激が強すぎる。
「ほんとに、もうやめっ……っ!」
顔がぶわっと熱く火照るのを感じて、先ほどまでの遠慮がちな力ではなく精一杯に優月を引きはがした。
「うぅ~? もう~、なんなのぉ?」
「それはこっちのセリフだよ!?」
眠たげに目元を擦りながらようやく優月は上半身を起こす。
「って……ちょっと待った。ねえ、優月? 一つ聞いていい?」
頭を抱えたくなるのを堪えつつ、彼女から顔を逸らして視界をできるだけ手のひらで覆う。これまで彼女の身体は毛布で覆われていたため、僕はその重大なる事実に気づいていなかったのだ。
「ん~? なにかなぁ? 優月ちゃんはもうひと眠りしたいので手短にお願いしまぁす。
「今から寝たら遅刻するから。ていうか、優月は僕を起こしに来たんじゃないの?」
「あ~、そんなだった気もする~。ごめんねぇ、ちょっと寝不足で~」
「寝不足……ね」
欠伸を噛み殺しているのが分かって、少しだけ胸が痛むのを感じた。
「いや、それよりも」
今だけは、頭を切り替えるために首を振る。
「優月」
「なぁに~? 翡翠くん~」
「……まずは、さ。その……」
上手く言葉が出てこなくてドもってしまう。こんな時でも、こんな時だからこそ、自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしい。
「その……服を、着てくれないかな」
そう、幼馴染である
つまり先ほど押し付けられていたあの場所はほとんど素肌だったわけで。人生初のパイタッチをこの鼻先で致してしまったわけで……。
「ふえ?」
きょとんと、優月はしょぼくれた瞳を見開く。
途端、時が止まった。
それからゆっくりと言葉の意味を咀嚼した優月は、これまたゆっくりと視線を肌色があらわになっているその姿態へと注いでいく。
そして遂には「ボッ」と、まるでコンロの火がついた瞬間みたいにその顔が真っ赤に染め上げられた。
「きゃ……」
「きゃ?」
「きゃあああああああああああああああああ!!?!!? バ、バカバカバカ見ないでよ翡翠くんのえっちぃ~~~~!?」
悲鳴を上げながら毛布を体に纏わせた優月は脱ぎ捨てられていた制服を回収して逃げるように部屋を去っていく。
「……水色、かぁ」
静かになった部屋でひとり、呟いた。下着姿を見てしまったのは申し訳ないと思うのだが、あの光景はなかなか記憶から薄れそうにない。
それから、今度は少しだけ懐かしさを覚えた。あの頃の光景が記憶によみがえる。自然と笑みが零れた。
部屋の窓を開けると、そよ風が頬を撫でる。淀んだ空気が入れ替わっていくようだった。
ゴールデンウイークが過ぎ去った心地の良い5月。夏にはまだ遠い朝日は柔らかく、とても過ごしやすそうな気候だ。世間にとっては夢のような休日が終わり、忙しない日常がリスタートする日でもある。
「ふぅ……」
大きく、深呼吸。
少し前、と言っても随分時間は流れたと思うけれど。とても辛いことがあった。とても悲しいことがあった。
世界はとても残酷で。生きるのは辛いことばかりで。寂しさは降り積もるばかりで。いつも、消えてなくなることばかりを考えていた。消えてしまってもいいと思っていた。
でも、彼女が僕の手を取ってくれた。
だからこの降りしきる雨のように冷たくて、出口の見えないトンネルのように暗いこの場所から一歩を踏み出そう。
そうやって、寂しい時間を終わりにするんだ。
不登校の引きこもりである僕、
身支度を整えると、僕は長いことお世話になりすぎた私室を後にした。
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