第4話

 風呂上り。私は水分補給しながら自分のパソコンを起動する。今朝の夢の内容もそうだけど、色んな事がありすぎて何から聞いてもらいたいかもよく分からない。ふらふらとSNSのチャットルームを覗く。


―こんばんはー

―ゆるりん、お疲れ様~

―あれから大丈夫だった?

―えー?何かあったの?


 昼間も話を聞いてくれたみやこのほかにも、「ちゅん」(多分女の子)と「たら」(多分男子)もいた。いつも集まっておしゃべりしているメンバーだ。何故か涙が出るほどホッとした。


―怖い夢見ちゃったんだよねー、ゆるりん

―昼間はありがとうね、みやちん

―怖い夢って?

―超バッドエンド、ルキウス様バージョン

―うわー、それやだわー()

―ルキウスばっかり攻略しすぎだからじゃないの?

―それみやちんにも言われたー でも他のキャラも一度は攻略したし

―一度w

―たらちゃん、ゆるりんにそれ言っても無駄だから

―これからまたやるの?

―もちろんだよー ちゅんちゃんは、今日はなし?

―月曜日だからね~


 そうだよねぇ。私も今日は三人と話せただけで良しとするかな。でもなぁ……。

 私の脳裏には、真っ青な顔をした真子と、真っ赤になって抗議してきた佳代の顔が交互に浮かんだ。ルキウス様の夢の件は、また時間があるときにゆっくりゲームして上書きすればいいとして、あの二人の件は明日すぐ対応しなければいけない。しかし、どうしたものか。


―ゆるりん、どうしたの?

―おーい、レスないぞー トイレ?

―いやそれ聞くなよw

―ごめんごめん!またちょっと別件を

―今日はゆるりんお疲れモードだね。また明日ゆっくり話そうか

―ごめんね、本当に

―いやいや。じゃ、お疲れっしたー

―またねー


 次々退室していく友達に挨拶をして、私もチャットルームを退室する。しかしその直後、スマホが鳴った。SNSのメッセージ受信らしい。

(こんな時間……。まさか、真子か佳代か……)

 この時点で更に突っ込まれても対応できる自信が無い。しかしスルーするわけにはいかないよね……。

 びくびくしながら画面を開くと、先ほどの「たら」君だった。何だ、良かった……。


『ゆるり、今大丈夫?』

『うん、さっきはありがとうね』

『何かあったの?』


 この子、多分私よりずっと若いと思うんだけど、気遣いが細やかなんだよね。誰かが落ち込んでそうな時はそっと声を掛けてくれる。

 ありがたいわー。でもこれ、相談していいんだろうか……。


『俺なんかじゃ相談相手にならないかもしれないけど』

 やばい!なんか察してる!そういう意味じゃないんだけど。

『ううん、ありがとう。ちょっと会社でね』

『ゆるり、社会人だもんね』

『私空気読めないっていうか…… 人の気持ちの裏を読むとかホント苦手で』

『俺、空気読むって言葉嫌い。だって透明な空気どうやって読むんだよ』

 私は思わず笑ってしまった。確かに。

『でもたら君は出来てるじゃん。今もこうやって声かけてくれたし』

『それは空気読んだわけじゃないよ。さっきみんなで話してる時も元気なかったから気になっただけで』

『ありがとねー』

 なんかだめだ、朝から立て続けに色々あって、しかもSNSってことで心のガードが完全に緩んだ。

 ついつい、愚痴をこぼしてしまった。

『会社の後輩たちに仕事を割り振ったんだけど、3人のうち2人からクレーム出ちゃって……。なんかどうしたらいいのか分からなくなっちゃって』

 ……全然意味わからない説明だな。しかし具体的に話すと情報漏洩とか、最近怖いしなー。いや、たら君が漏洩するって意味じゃなくてさ。


『クレームって?』

『んー、Aちゃんに振った仕事について、Bちゃんが、自分のほうが相応しいから変えて欲しいとか、挙句先輩はAちゃんのほうが私より好きなのか、とか。まあなんか、そんなこと言われて』

 仕事に好きも嫌いもあるか。出来るか出来ないかなのに。少なくとも私はそう思って、あの分担を決めた。

 怒涛の勢いで抗議してきた佳代の様子を思い出して、私はまた気が重くなる。きっと明日になったからって消えてなくなるものではないだろう。その程度の問題なら、あんな風に私に抗議してくる子ではない。


『なにそれ、まんまルキウスとダレルだね』

 ……ん?

 たら君のメッセージを読んで、私は数回瞬きをする。

 ダレル……、あ!!

『あったー!そんな場面!』

『ゆるり、反応遅いw 俺すぐぴんと来たよ』

 

 私の脳は突然覚醒した。

 そしてゲーム内の、ルキウス様とダレルのひと悶着を思い出していた。

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