第3話

 「──と、言うわけなんだよ」

 白電話の受話器片手に媿龍院が向こうの誰かと話す。外日が昇り朝食後の煙草を一服しながら。

 「──────(同居人についての心境)」

 「昨日眠るまで考えたよ。考えて…………あー、留守の間を任せる小間使い」

 「…………──────(正気かまたは結論か)」

 「はい、じゃあないよ。さっき思い付いた事だ。つっても、曇天アイツが連れてくるのは人の独自の手法ルーツ原種オリジナルを掛けて継ぎ接ぎで造ってブレンドしたような不安定な存在だ。……それは端的に人が造った魔物と言う“業”だ。もしくは縮小版“疫病と厄災の祟り神”、“人の創意した悪意”だ」

 「………………(向こう側が心配で黙る)」

 「最悪……という考慮プランもある。それも肝に銘じてる。そろそろ切るよ、じゃあね。頑張って」

 受話器を定位置に戻し、一息吐く。煙管を咥え煙草を火皿に詰める。人差し指の腹に乗る火の玉を作ると着火し2度息を吸い込み、吹かし出した。

 今から事が足を生やして来そうだ、内心不安を抱く。──それがやって来た。種を携えた奴が鳥居に見えた。曇天である。

 「……帰れ」

 見えて早々出てきた一声が“帰れこれ”である。酷い言われだが、そんな事をお構い無し。むしろ些細な程度として受け流し──、

 「ちょーとちょとちょと、一大事。異常事態、早急問題解決事案なの」

 「来んなよ。朝からお前見ただけで気が沈む。何だ?気分下降の能力を持ってるのか?」

 「それは媿龍院だけにしか発動しないよ、なんだったら──じゃなかったよ。脱線しちゃったよ。何してくんだちめぇえは」

 「うるさい、お前を目に捉えたらムカムカも起きる。何しに来たんだ?さっさと帰れよ」

 「まあまあ、ちょっと」

 こほん、曇天が咳払いをすると何処からともなく部下達がわらわらと沸いて、紙芝居舞台と『媿龍院と曇天くんちゃん』と書かれたタイトルが記載された紙芝居がセットされていた。これに不快感と嫌悪感を露にし、冷ややかな視線をする媿龍院。

 ポップな絵柄で子供安心に配慮した、微流血表現ありの紙芝居が曇天のタイトルコールで始まった

 「──ここは、園と呼ばれる人間にとってサディスティックでサクリファイスな地獄。人外達による平穏による、平和であり、楽園さ。今日も曇天くんちゃんは住人と仲良くするよ」

 猫なで声で語り部をする。視聴音読する側の媿龍院は軽蔑と不愉快極まりないと言わん張り──、

 「…………きんも」

 とだけヘイトを吐いた。まだ入り口が開き隙間風が吹いた程度なのに。

 ベラリ、場面となる絵が変わった。

 「曇天くんちゃん、今日も平和だるんるんるーん♪おやー、誰か新しい入居者の気配がするぞー。よーし、突撃!園においでよ!の企画だぁ。新入居者のステータスは158センチの身長、何やら人間こねこねぐちゅぐちゅして産み出した人造神ではないか」

 ベラリ、場面と絵がまたもや変わる。

 「性別はー、生物学に基づいて牝。個人的にやや不満な体重量は約40前後。華奢な身体だ。髪色は黒だよ黒。髪型は招く途中カット&セットして肩までストレート。服はねぇ、『給仕長』の部下の子から掻っ払ってきたんだ。サイズはちょっとダボダボだけどね」

 「おい大丈夫だよな?こっちに飛び火しないよな?被害被らないよな?」

 『給仕長』という言葉が出た瞬間媿龍院は焦りだした。それについて曇天は大丈夫大丈夫と言うが、不安を覚えてしまう。同居人となる人物へも。

 ベラリ、場面と絵が変わる紙芝居。そしてこれが早いがラストページ。

 「同居人はちょっと人間臭い、そして微弱だが日本神話系統の神気を埋め込まれての混ぜ混ぜして誕生した半人の人造神だぁ。権能は一切不明・未確認。製造元は伏せさせて構成は人間ベース、死去した時期は西暦八一〇年代と推定。享年推定は二〇代後半、移植された神気は現在も調査中……『主』認可の下で媿龍院へと預ける────それが、あれだ!!」

 ビシッと赤い垂れ幕を指差しだす。指差したそこには二名の部下だった。壁となり、その後ろに誰かが隠れている、いや隠されてしまっている。

 「………さぁ、いよいよご対面だぁ。紹介しようじゃないか。媿龍院への同居人────新入居者、だー」

 横に別れる曇天の部下達。龍人と同居する人物のご対面だった。

 短く切り揃えられた黒髪。色白い肌と媿龍院のみぞおちあたり届く体躯。そして曇天作の紙芝居に出てきたサイズが不釣り合いのダボダボとしたメイド服を着込み、おどおどした娘だった。

 「…………ん?」

 こいつのなのか、と指を差し目で訴えかける媿龍院。それに対し曇天は嬉々と頷く。

 「は、初めまして。同居人となります白宗しらむねと申します」

 「でーす、白宗ちゃんでーす」

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