第69話 腹の中で
「トウカ、トウカ。大丈夫か」
「し、師匠。ごめんね。私が落ちたせいで」
「よかった、無事だったか」
ただ釣りに出ただけなのにひどい目にあったもんだ。
それにしてもここは――あのモンスターの腹の中だよな……。なんで腹の中に草原があるんだ?
「師匠、私また異世界に転生しちゃったのかな?」
いや、いや、まさか――え、無いよね?
「だって、さっきまで海だったのに、ここ草原だよ。一体どうして」
ほんとにな。ここは何処なんだ?
「ここにいても仕方ないから、ちょっとその辺りを調べてみるか?」
「その前に、服乾かさない? 寒いんだけど」
そうだなって――
「おい、何脱いでんだよ!」
「いや、だって寒いし。師匠も早く脱いだほうが良いよ。風邪引くよ」
魔法使えば、脱がなくても乾かせるだろが。
「お前、だんだんと誘い方が露骨になってきたな」
「だって、奥さん誰もいないから今がチャンスじゃん。師匠も溜まってるでしょ。それにほら、こっちきてから大きくなったんだよ。みてみて」
ほうほう。確かに大きくなってるな。
「触ってみて」
トウカが揺らしながらすり寄ってくる。そのやり方はライカとそっくりだぞ。
「ほら、乾いたぞ。早くそれを着ろ」
紅丸を使って服を乾かした。
「そんなー。触ってよー。触って、触って」
子供か!
「じゃあ、触らなくていいから、奥さんにしてよー」
もう奥さんはお腹いっぱいです。結構ですから。
「さて、服も乾いたし、行くぞ」
「あー。待ってー」
あれから、小一時間くらい歩いている。
「なあ、これってアレだよな」
「アレって何? 私は階段だと思うんだけど……」
確かに階段だな。ただし、地面の下に続いている。
「これはな、多分ダンジョンの入り口だな」
「ダンジョン! 初めて見た! 入ってみたい!」
言うと思ったよ。
「ダンジョンってのはな。とても危険な所だ。モンスターもいれば、罠もある
。食材も持っていないのにダンジョンに入って飯はどうするつもりだ」
いくら強くても、食事をしなければ本来の力は発揮できない。ダンジョンを舐めてはいけない。冒険者の基本中の基本だ。
「なんとかなるって。さあ行きましょ」
まいった。全く話を聞いていない。勝手に入っていってしまった。
勝手に行くな。ダンジョンは本当に危険なんだ。引っ張り出してやる。
ダンジョンの中に入ったトウカを連れ出すために後を追う。
「なんじゃこら」
「あっ、師匠もやっぱり来たんだ」
「来たんだ――じゃねえ。勝手に入るんじゃない。ダンジョンは危険なんだ――が、どうやらここはダンジョンじゃねえみたいだな」
ダンジョンだと思い、足を踏み入れた先には何やら馬鹿でかい建物がたくさん並んで建っており、規模の大きさに驚いたが、そこに人の気配はなく、酷く無機質に感じた。
「師匠、ここ私の元の世界だよ。東京って言う所。あれ、東京タワーって言う奴だし。あれ? でもスカイツリーが無い。どうなってんの?」
「そんなの俺が知るか! そんな事よりもまずは食料と寝床の確保が先だ。知らない土地に来た時の基本中の基本だぞ」
まずは生き抜くための手段を確保する必要がある。
「だったらまずは宿に行こう。こっちだよ」
トウカが宿に心当たりがあるらしい。後をついて行く。
「ここが宿屋なのか?」
「そうだよ。ほら、この画面で入る部屋を選ぶんだよ。師匠、この部屋でいいかな?」
「俺には分からんから、トウカに任せる」
何だ、この四角い板は? 板には小さな部屋の絵が書いてあるが、実際にそこにあるような精巧さだ。この中に入って泊まるのか? これは何かの魔道具で空間を圧縮しているのか?
「じゃあ、この部屋にしよっと。ほら、師匠行きましょ」
「行くって何処に行くんだ?」
トウカは上の方を指す。階段も何も無いんだがどうやって上に行くんだ?
するとトウカは壁にあるボタンを押した。それは押して大丈夫なのか? 罠じゃないのか?
うおっ。勝手に扉が開いたぞ。何だこれ。
「師匠、何してんの? 上に行くよ」
そんなおかしな部屋に入れというのか。怪しすぎるぞ。
「それは入っても大丈夫なのか?」
「ぷっ。もしかして師匠、ビビってんの? ぷっ。可愛い」
「び、ビビってなんかないわ。余裕だ。余裕。さあ行くぞ」
ひやっ。う、動いたぞ。大丈夫なのか。上に行っているみたいだけど。
「師匠……。怖いならはっきり言いなよ」
「べっ、別に怖くねえって」
「じゃあ、これは何なの?」
俺の手はトウカの服をギュッと掴んでいた。
「これは、さっきみたいにトウカが勝手に彷徨かないように捕まえているだけだ」
「ふーん。まあいいけどね――わっ!」
「ひえっ!」
トウカが急に大きな声をあげたので、悲鳴が漏れてしまった。ただ声にびっくりしただけだからな。別に怖いわけじゃないからな。そこ。笑うんじゃない。
「なあ、トウカ。ベッドが一つしか無いぞ」
「ここは一個しか無い部屋だからね。でもその分大きいでしょ。二人で寝ても大丈夫だよ」
「それに、何でこんな色なんだ。これじゃあ、あの馬車の内装と同じじゃないか」
「慣れてる色の部屋のほうが良いと思って……」
分かった。では、俺は一度入り口に戻って、もう一部屋取ろう。
回れ右して、ドアに手をかけるが開かない。あれ。何でだ。
「師匠。一度入ると朝まで開かないんだよ。防犯上仕方ないんだ(嘘だけどね)」
ちっ。仕方ねえ。今日はここで寝るか。久々のベッドじゃないのか。国を出てから初めてだぞ。しかも何だこのふわふわなベッドは。
「師匠、お風呂沸かすけど、入るでしょ」
「おお。入るから沸かしてくれ」
風呂まで付いているのか。最高の宿じゃないか。楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます