第66話 港町散策
「お父様、この後はどうされるのですか?」
「特に予定はないから好きに過ごしていいぞ。俺は釣りをしに行く」
「また釣り!」
いいだろ、別に。好きなんだから。
「我は主と一緒に行くぞ」
「僕はこの辺りを回って街の調査と情報収集をいたします」
レイ君は後日、ここを押えに来る際の事を考えて下調べをしておく算段の様だ。
「トウカはどうする?」
「別にお腹は空いてないからなぁ。でも釣りかぁ。まあいいか。師匠に付いてくよ」
嫌ならついて来なくてもいいんだがな。まあいいかは俺のセリフだな。
「じゃあ、レイ君。夕方には戻るから。変な奴に気をつけてね」
「はい。お父様もお気をつけて」
さてと、釣りをしたいんだけど、道具をどうしようかな。
「師匠、釣りがしたいんでしょ。取りあえず、港の方に行ってみない?」
トウカがもっともな意見をくれたので、港の方に皆で行ってみる。
「師匠。この辺りの漁師は網で魚を取る様だよ」
トウカの指す方を見ると漁で絡まった網を解いている漁師の方々がいた。
「その様だな。やはり釣竿なんてものは無い様だな。トウカ作れるか?」
「海の魚は大きいからね。頑丈でしなりがある長い棒と細いけど丈夫な糸があれば作れるよ。もしくは最悪、糸の方があれば大丈夫」
海の魚は大きいのか。確かに川と比べれば海は広大だからな。体も大きくなるか。
「糸の方は心当たりがあるな。棒はあるかどうか分からないけど、取りあえず行こうか」
「主、何処に向かってるの?」
「ん。ああ、冒険者ギルドだ」
あそこにはモンスターの素材が集まるからな、適当な物が見つかるだろう。
街の中にあったギルドの中に入ると周りが静まり返った。
「おい、あいつ……」
「まさか、あいつが何でここに……」
また、この流れかよ。レッドのせいで無駄に絡まれる。しかもここは港町だけあって、屈強な男たちが多い。喧嘩になったら水を得た魚の様に参加してくるだろう。困ったものだ。
「教祖様だー」
「遂にこの街にも教祖様がお出でになられたぞ」
あれ。思っていた反応と違う。
「でも、ミリアちゃんがいないぞ」
「ほんとだ。ミリアちゃんのライブが見れると思ったのに」
どうやら、ミリアの人気が凄まじい事になっている様だ。
レイ君曰く、この辺一帯を既に支配下においているらしいので、ギルドであれば他の街の情報が届いてもおかしくは無いな。冒険者は街から街へ移動するからな。
「依頼があるんだがいいか」
ギルドの受付のお嬢さんに欲しい素材の特徴を伝えてみると、二つの素材が出てきた。
「この二点であれば教祖様のご要望に応えられるかと思われます」
お、おい。これは幾らなんでもやり過ぎだろ。
「ドラゴンの髭とレッドスパイダーの糸になります」
やっぱり。こんな素材買い取れるくらい金があったかな。
「幾らだ」
「そんな。教祖様からお金なんていただけません」
いやいや。こんな高級素材をタダでは貰えん。
「代わりに、ミリア様のコンサートを最前列で見たいんですけど駄目ですか」
マジか。そんなに人気あるのか、あの子。ドラゴンの髭なんて貴族の家が数十件は建つくらいの高級品だぞ。レッドスパイダーの糸だって、貴族の衣装を作る糸で予約してもなかなか仕入れられることがない貴重品だ。
「わかった。このギルドのスタッフが参加できるように伝えておこう」
それくらいいいよね。後でレイ君にお願いしておこう。
「本当ですか! どうぞ。お持ちください」
おお。これがドラゴンの髭か。弓を作る素材などになるらしいが、手にするのは初めてだな。ドラゴン自体は腐るほど狩っているけど、面倒だから素材の回収は人任せだったからな。
「トウカ、これで作れるか?」
トウカが髭をグニグニと曲げて強度を調べている。結構力をいれて曲げているけど折れない。
「これだけ強度があれば大丈夫よ」
そう言って、グーにした手の親指をたてて、前に突き出してくる。これは大丈夫とか任せておけという意味だと聞いた。
うむ。出来上がりを期待しておこう。
さてと、次の問題は釣る場所だな。どこかいい場所はないものか。
「師匠。あの船借りて、沖の方で大物釣ろうよ」
「大物か。我も大きい方が食いがいがあるから、そっちの方がいいぞ」
俺は大きくても、小さくてもどっちでもいいけどな。そういうなら大物でも狙うかね。
「おっちゃん。これであの船貸してくれないか」
漁師のおじさん(といっても俺と大差ない歳だろうが)に船を貸して貰うために金を渡す。
「うわっ。こんなに。新しい船が買えるじゃねえか。だったらその船やるよ」
正直船なんて貰っても困るけど、まあいいか。要らなくなったら壊して焚火にすればいい。
「よし、いくぞ」
譲り受けた船に乗り、沖の方へ漕ぎ出す。漁師のおっちゃんから水だけは最低でも持っていくように言われたので、水袋も積み込み済みだ。
さてと、どんな大物を釣り上げてくれようかな。
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