7章 新たな旅へ
第65話 旅の再開
「レイ君、トウカを何とかしてくれ」
「お父様、トウカを何とかしてください」
あの日以来、トウカの嫁にしろ攻勢が激しい。朝会った時、修行の最中、馬車の走行中。常に嫁にしろと言ってくる。どうも弟子の中で自分だけ嫁じゃないのが、嫌なようだ。嫁ってそんな感じでなるものだっけか?
駄目だ。人の国を出て長いから一般常識が分からなくなってきた。そもそも俺を育てたのはあのレッドだ。俺の常識が普通のものかも怪しく思えてきた。
トウカがこんなにも俺に絡んでくるのにはもう一つ理由がある。喧嘩相手のライカがいないからだ。
なんでも、アイシャから緊急嫁会議を開催するから帰って来いとの事ですんなりとセツナとミリアと一緒に帰っていった。併せてセツナがバルスとサーシャも子供を旅に連れ出すとは何事かと怒って連れて帰ってしまった。
だから、今ここにいるのはレイ君とトウカと俺の三人だ。あとでかい狼が一匹、馬車を引っ張っている。
ポチが旅に同行する様になった際にも一悶着あり、俺は主人ではないと言ったのだが、ポチ的には俺は主人で間違いない。絶対についていくと言って聞かず、仕舞には泣き出してしまったため、仕方なく俺が屈し、現状に至っている。
その際に、レッドの様に、新しい名前が欲しいとポチが言ったため、シオンと呼ぶことにした。
トラブルメーカーがいなくなったので、旅は至って順調なのだが、ミリアがいないのでレイ君の布教活動はストップしている。ぶっちゃけトウカの修行くらいしかすることが無くて暇だ。
たまに狼が遊んでくれと襲いかかってくるので、死にそうになるがそれくらいだ。
俺はそんな事よりも緊急嫁会議の内容が気になって仕方が無い。あの4人が集まって、何を決めているのだろうか。俺にとっては禄でも無いことだと言うことは分かっている。次に国に戻った時にどうなるのか恐ろしすぎる。このまま国に帰りたくないなあなんて思ってみたりしている。
まあ、そんな訳にいかないので、あと少ししたら一度帰ろうと思う。
そんな事を考えていると、いつの間にか次の街に到着していた。次の街は海の側にある港町だ。人生2度目の海だ。
トウカとレイ君に聞いてみたが、向こうの世界では小さな島国に住んでいたので、海は別に珍しいものではないらしい。
この独特の匂いのする風が港町に来たなと感じさせてくれる。
いつもは肉しか食っていないが、港町だから魚料理がメインになるだろう。非常に楽しみだ。前食べたのは20代の頃、こことは真逆の方面にある海だったので、こちらではどんな料理が食べられるのだろうか。
このまま街に向かうと住民を驚かせてしまうので、シオンを人型にさせる。服はサーシャの替えの服を置いて帰って貰ったので、それを着させている。サイズ的には少し小さい位で3歳のサーシャと殆ど変らない。俺としては子供が一人増えた感覚だ。
「さあ、やっとこさ普通の街についたんだ。今度こそ宿のベッドで寝るぞ」
旅に出てから数か月。未だに一回も宿で寝ていない。こんな過酷な旅は初めてだ。トウカ達は馬車の中のベッドで寝ているからいいだろうが、俺はずっと野宿だ。いい加減屋根の下で眠りたい。
「お父様、こちらに良い宿があるそうですよ」
街に入るなり、綺麗な女性を見つけ声をかけていたレイ君が宿の情報を仕入れてきてくれた。
8歳にしてこの行動力、やはりレイ君の将来は全く心配しなくてもいいだろう。だが、将来よりも今を心配してあげないといけない様だ。
「アンタは街に入るなり何をしてんのよ」
「ぎゃーーー。止めてくれ。父様、助けて」
トウカにアイアンクローをされてレイ君が悲鳴を上げている。レイ君が本気を出せばあれくらいは躱せるはずだから、あれはじゃれているだけだろう。よし宿へ向おう。
「すみません、お客様。本日は二人部屋が1部屋しか空いておりません」
向かった宿で四人部屋か二人部屋を2部屋頼んだのだが、空いていなかった。
「4人分の料金を払うから、その一部屋に四人で泊まって良いか?」
「宜しいですよ。お子様がお二人おられますので、三人分の料金で大丈夫です」
よかった。何とか宿に泊まることができそうだ。
「それじゃあ、それで頼む」
「もうお部屋に入られますか。まだお昼過ぎですが」
「いや、今街に来たところだから、散策してから夕方にまた来るよ」
「承知いたしました。それではお待ちしております。いってらっしゃいませ」
よし。宿も取れた事だし、ゆっくり港町を観光するぞ。
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