第34話 大雪原
「レッド、セツナの故郷はどんな所なんだ」
「アル様、アルフレッド著の本をお読みになられましたか。折角書きましたのに」
あ、こいつ遂にあれの著者が自分だって認めやがったぞ。
「書いた本人がいるんだから、聞いた方が早いだろ」
ミリアの故郷の森を旅立って、既に2週間、そろそろ次の目的地の近づいているはずだ。
なぜなら、俺が昼夜問わず全力で馬車を引いているからだ。
ミリアという猛獣が1匹増えたため、更に馬車の中が危険地帯となってしまった。
あれからアイシャとすることもできず、俺は禁欲中である。しようとすると二人が必ず乱入してくるのだ。アイシャもそれを止めようとはせず、一緒にと言うため、俺は逃げ出すしかないのだ。
実に困った事態になってきた。
そんな理由で、暇を持て余しているため、ずっと馬車を引いていたのだ。
今や俺の癒しはレイ君だけなのだが、レイ君は俺が近づくと逃げてしまうため、未だに満足にわが息子を抱いていない。アイシャやセツナに抱かれるレイ君を眺めているに留めている。悲しい。
「セツナ様の故郷はこの先にある大雪原を抜けた先にある湖の側にございます」
「大雪原というくらいだから、雪が降っていて寒いんだろうな」
「そうですね。前が全く見えないくらいの吹雪でしたね。じゃなかった、吹雪だったと聞きました」
こいつ、いろいろと隠す気が無くなってきているな。
レッドはやはり、この国に来たことがある様子だ。こいつの目的がはっきり言って分からない。ワイズの部下の様だが、あいつに従っている様にも見えない。
まあ、こいつがいなければ、旅は上手くいっていないだろうし、話し相手もに困っていただろう。今の所は助かっている。
どうか裏切らないで欲しいものだ。こいつと戦いたくはない。
「師匠、そろそろお食事にされませんか」
馬車の中からセツナが声をかけてくれる。馬車を停め、レッドを見張りとして残して、中に入る。
今日の食事もおいしそうだ。この面子の中で料理ができるのはアイシャとセツナだけだ。レッドはパンが焼けるだけで他は駄目だ。俺は昔は作れたが片腕では無理だ。ライカとミリアは食材には触ることを禁じている。理由は察してくれ。
「今日もうまそうだな」
「ええ、主人への愛を込めておりますゆえ。師匠も料理ができる嫁の方がよろしいですわよね。ぜひ私を第二夫人にしてくださいませ」
「お前はまだ親の了承をとっていないだろ。その話はまた今度だ」
「大丈夫ですよ。力づくにでも了承は得ますので。ですので先払いで今晩にでも……」
そういって、俺の手を取り、触らせようとしてくるので、振り払う。油断も隙もない。
「先払いも後払いもない」
「そんな、酷い。師匠は私を弄んで捨てるつもりですか」
「……」
人聞きの悪い事を言う。そんな事実はないはずだ。
「あんなに裸で抱き合いましたのに」
「……」
お前が勝手に布団に入ってきていただけだ。
「こうなったら、最終手段しかありませんね。師匠、私にこの手を使わせたのは師匠ですからね。さっさと認めておられれば、こんな手は使わずに済んだのに」
セツナが奥の部屋に入っていき、レイ君を連れて帰ってきた。
まさか、それは卑怯だろ。
「レイちゃん、貴方のお父様は私を妻にしてくれないのです。
だからレイちゃんとは残念だけどバイバイしないといけませんわ。もう一緒に寝てあげられないわね。とても寂しいわ」
セツナがレイ君へお別れを言っている。
止めろ。それ以上言ったらレイ君が、レイ君が。
「ウワーーーーーーーーーーーン。びぇーーーーーーーーーん」
レイ君が泣き出してしまった。
流石、セツナだな。俺がもっとも弱い手を的確に使ってくる。レイ君を持ち出されては、俺は抵抗することができない。
「く、セツナ。分かった。俺の負けだ。レイ君を泣き止ませてくれ」
「師匠、何が分かられたんでしょうか。具体的にお言葉を頂けますでしょうか」
くっ。無念。俺もここまでか。
「セツナ、親の了承さえあれば、お前も嫁の1人として認める。だが、それまでは決して手は出さないからな」
もう、セツナの親が常識的な人であることを祈るしかない。
「はい。確かにお言葉頂きましたわ。レイちゃんとおいで、一緒に寝んねしましょうね」
レイ君を抱いて、隣の寝室に入っていった。
ちくしょう、なんて手ごわく育ちやがったんだ。育てた俺が言うのもなんだが、誰に似たのか。
くそ、こうなったらやけ食いだ。
うまい。料理の腕は凄いんだよな。実際セツナがいなくなったら、アイシャの負担が増えてしまうから、必要な人材ではあるんだよな。
「あなた、セツナちゃんにこっぴどくやられたみたいね」
「……」
「セツナちゃんにあなたが勝てる訳ないんだから、そろそろ諦めて、皆で仲良くしましょうよ」
「俺も無駄な抵抗だとは思っているんだけどな。俺としては夫よりも師匠として接していたいんだけどな」
「結婚したって、関係性は何も変わらないわよ。師匠と弟子、時々、夫でいいじゃない」
「だがな……」
俺は存外、師匠というものに、居心地の良さを感じているのだ。
あいつ等と結婚したら、また弟子でもとって育てよう。今度は絶対に男だと確認してからな。
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