第17話 解決

「俺は帰るから、後はお前たちに任せる」

 俺はバカバカしくなり、帰ることにした。

「師匠。お待ちください。こんな状況、私たちにどうしろとおっしゃるのですか?」

 知るか! 俺はお前たちのトラブルに巻き込まれて人生を放棄したんだぞ。これ以上関わっていられるか! 俺は帰って寝るんだ。アイシャの夢を見るんだ。

 無視して帰ろうとする俺の腰にしがみつくライカ。

「帰らないでーーーー。助けてください」


「おい貴様、レオナルドはどうした。それに儂の兵器が3匹とも揃っておるではないか。首輪はどう……」

「あなた、少しうるさいわよ。黙ってなさい。」

 そう言って、豚が持っていた首輪を奪い取り、取り付けた。

「あっ、その首輪は!」 

 先ほどライカとセツナが付けていた首輪と同じものが豚に付けられた。


 これは面白い事態になった。

「おい、豚。土下座しろ」

 何の反応もしない。俺じゃ駄目か。 

「ライカ達のお母さん? 私はこいつ等の武の師匠をしております、アルバートと申す者です。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「これはご丁寧にありがとうございます。私はラティア・グランスバルトと申します」

「では、ラティア様。この男に何か命じて頂けますか?」

「豚、跪きなさい」

 豚がその場に四つん這いになると、鞭打ち出した。

「反応が無いから、楽しくありません」

 ラティアさんは俺をじぃーと見ながら訴えた。此方を見るのは止めて頂きたい。俺はノーマルです。

 ラティアさんの命令は聞くようだ。

「ラティア様、首輪の鍵を出せと命じてくださいますか?」

 ラティアの命に応じ、豚は素直に首輪の鍵を差し出した。俺はすかさずその鍵を奪い取った。

「ラティア様、俺はこの鍵を投げ捨てようと思います。そうなるとこの豚は一生このままですが宜しいですか?」

「別に愛なんて最初からありませんから問題ありません」

 話を聞くと、豚に一目惚れをされて楽が出来るから結婚しただけで、愛なんて無かったそうだ。鞭でぶつのは楽しかったらしい。


 何の遠慮も要らないらしいので、窓から全力で投げた。分かってたけど無茶苦茶な速度で飛んでいった。誰かに当たったらごめん。


「うわーーーー」

「どうした?」

「ど、ドラゴンが落ちてきた」

「首から上が吹き飛んでる。誰が殺ったんだ? こんな荒野のど真ん中で」

「???」


「これでいいだろ。俺は帰るから。お前たちはラティア様とよく話をして好きな道を行け」

 これでこの豚はラティアさんの命令を聞くだけの豚に成り下がった。もう迷惑はかけられないだろう。自業自得だな。

 これ以上は付き合ってられないので、そのまま窓から飛び降りて帰った。

 あいつ等は好きにすればいい。

 むしろこのまま出て行ってくれて構わない。


 そもそも王都に来ることになったのも、あいつ等のせいだ。

 勿論、あいつ等に悪気が無いのは分かってはいる。俺の世話をしてくれるのも善意からだ。分かってる。

 でもな、結果マイナスにしかなってないんだよ。


 あいつ等の事をよく考えてみよう。

 あいつ等が居て毎日楽しい。だけど大概トラブルが起きて死にかける。

 あいつ等はかわいい。目の保養にもなる。だけどアイシャとの交際の邪魔をされて結局何もできない。二人っきりにもなれない。

 あいつ等は強い。一緒にいると強くなれる。だけど毎日の稽古が地獄、死の恐怖。

 あいつ等はいつも尽くしてくれる。だけど常識がぶっ飛んでるから、尽くし方が斜め上方向にぶっ飛んでいる。

 うーん。プラス部分も確かにあるが、大きく上書きするマイナス要素。

 ハーレム野郎と罵る奴、替わってやろうか。普通の奴なら一日目で死ぬぞ。


 王城から脱出したのはよかったが、この見た目では宿には帰れない。外見的な特徴でいえば角が生えているだけ、これを何とかできれば人間社会で生きていける。

 ターバンみたいな物で誤魔化せればいいのだが今は文無しだ。

 さて、どうしたものか。


「アルバートさん、やっと見つけた」

 これからどうしようかと悩んだいたらリシュに出会った。

「アルバートさん、急に飛び出して行かれたので探しました。アルバートさんに頂いたお金で無事に薬を買うことができました。これでセルカの病気もよくなると思います」

 リシュが普通に話しかけてくれることに驚いていた。

「リシュ君、俺の事怖くないの?」

「何がですか? それよりもアルバートさんも獣人さんだったんですね。その角は何の種族なんですか?」

「うぇ。あぁ。えっと。何だったかな。実は知らないんだ。聞く前に親が死んじゃってね。ははは」

 取り敢えず誤魔化す事にした。

 リシュは俺の事を獣人だと勘違いしている様だ。確かに獣人は様々な種族がいる。角がある種族もいるだろう。なる程、一筋の光明がみえた。

「リシュ君ありがとう。ちょっと悩んでたんだけど、解決の道がみえた気がする」

「え。何のことだかさっぱりですが、お礼は僕の方が言いたいくらいです。セルカも会いたがっていますので、絶対また来てくださいね」

「勿論伺うよ。まだ恩は返しきれていないからね。数日うちには寄らせて貰うよ」

 セルカに薬を飲ませたいとリシュは慌てて帰っていった。

 

 堂々としていればいいんだ。おどおどするから逆に怪しまれるんだ。

 堂々と、堂々と。

「アルバート様」

 ビクッ。

 急に呼び止められた俺は飛び上がりそうになった。

「な、な、何の用だ?」

「どうかされましたか? 汗が凄いですが? ラングリッド様よりご伝言を承っております『明日の朝、ギルドへ出頭するように』とのことです。確かにお伝えいたしました」

 宿の従業員は伝言を伝えると去っていった。

 色々あって忘れていたが、俺は査問委員会に出頭しに来てたんだった。


 それにしても、今日は疲れた。王都に来てから1日とて気が休まった日が無い。これからの俺の生活はどうなるのだろう。物理的には敵はいないと思うのだが、この体のことはよく分かっていない。

 父さんが封印までして人間として暮らす程だ。鬼神族には何かあるんのではないだろうか。途轍もない不安が襲ってくる。


 俺の平穏な生活は戻ってくるのだろうか?

 間違った。俺は平穏な生活なんて過ごしたこと無かったわ。

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