第13話 ジャスティス
「ほう、今の一撃を防ぐか。ふむ、ドクターの言っていた俺様達に近しい力を持った『原罪』の適合者と言う者共がいる、と言うのは与太話では無かったようだな」
先程の一撃をギリギリで防ぎ、肩で息をしている僕の前のそいつは悠々と姿を現した。
男の年齢は20代後半と言ったところか。
180を超えるであろう長身にオールバックに纏めた燃えるような赤髪、それに真っ赤に輝く魔眼を有したその男こそ、僕らが倒すべき敵、ジャスティスなのだと直感的に察する事が出来た。
「あなたが、東京を支配する【デスペラード】のリーダー、ジャスティスですか?」
「ふむ、俺様がジャスティスである事は否定せんが、【デスペラード】と言うくだらん組織のリーダーなどと思われているのは心外だな。アレはあくまで俺様の下僕達に過ぎず、そのようなくだらん集まりに俺様が加入した気など毛頭無いわ」
そう語る彼の態度は、一言で言えば不遜表現するに相応しいものだった。
おそらく、彼は全てのものを見下し、今相対している僕すらも取るに足らない些細な障害程度にしか感じていないのだろう。
「まあ良い。さて、先の一撃を防いだ褒美だ。キサマらに俺様へ名を名乗る栄誉をくれてやる。さあ、疾く名を告げよ」
「・・・・・・響史だ」
一先ず僕は名を告げ、チラリと背後のアヤメに視線を向ける。
しかし、アヤメは目の前の男の態度が気に入らないせいか頑として口を開こうとしないので、代わりに僕が再度口を開く。
「そして、僕の後ろにいる少女の名はアヤメだ」
「ふむ、響史にアヤメか。何、キサマらを殺すまでは名を覚えておいてやろう。さて、では改めて問おう。キサマらは何故俺様の領土に進行し、あまつさえ俺様の許可無く奴隷共を開放している?」
「奴隷!? ふざけるな! 東京の人々はお前の奴隷なんかじゃ無い! お前は何でこんな酷いことが出来るんだ!」
「酷い? ハハハッ! 笑わせるな、これの何処が酷いというのだ」
「お前達は自分の私利私欲のために人々に過酷な強制労働を強いているだろ! それに、己の欲望を満たすために力無い少女達をまるで道具のように扱って――」
「それの何が悪い」
そう語るジャスティスの瞳には、明らかにつまらない物を見るような失望の光が宿っていた。
「力の無いゴミ共が、生きるために力有る俺様達に支配されることの何が悪だ? そもそも、自然界において弱肉強食は最も自然な摂理だ。で有れば、力有る俺様達こそが絶対の正義であろう?」
「違う! 正義とは、力ある者も無い者も互いに手を取り合い、共存して行く事にこそあるはずなんだ! だから、自分の私利私欲のために力を振るうことは間違っているはずなんだ!」
「詭弁だな。人間とは何処まで愚かで浅ましい生き物だ。故に、甘やかせば甘やかすほど調子に乗り、助けてもらうのが当然だとばかりに図々しい要求を重ねてくる。ならば、そんな愚か者共のために何故俺様達力有る者が犠牲になれねばならんのだ? 己の力を己の欲望を満たすために使わず、他者の際限ない欲望を満たすために使え、などと言われて納得出来る訳が無かろう」
「別に僕は全ての要求に応えろ、と言っているのでは無い! ただ、力を持たずに助けを求める人々に手を差し伸べるべきだと言っているんだ! 確かに、僕も今まで善意で助けた相手に悪意を向けられたり、更に無茶な要求を向けられた事なんて数え切れないほど有る。でも、それで全ての人を見捨てて自分の欲望を優先するのが正義だとは絶対に思えない!」
淡々と言葉を返すジャスティスに、僕はつい感情的になりながら声を荒げて反論を繰り返す。
そして、暫く言い合いを続けていると不意に今まで無言を貫いていたアヤメが口を開いた。
「別に、どちらの意見が正しくてどちらの意見が間違ってるなんてどうでも良いんじゃ無い?」
「なっ!?」「ほう?」
「人間なんて、誰でも自分の基準による正義や誇りを胸に抱えるものでしょ? だったら、2人が前提にする条件が違うんならどれだけ言葉を交した所でその考えが交わる事なんて無いじゃん。そもそも、ボクだってキョージと同じ正義を信じて戦ってる訳じゃ無く、ボクはボクの信念に基づいて行動しているだけだからね。ぶっちゃけ、ボクの信念を貫くためならこの東京に囚われてる人の命がどうなろうがボクだって知った事じゃ無いし」
「アヤメ!!?」
思わぬアヤメの宣言に僕が驚きの声を漏らすと、それを聞いていたジャスティスが突然豪快に笑い出す。
「ハハハハハハハッ! 面白い! 面白いぞ、女! ふむ、アヤメ、と言ったか? キサマ、俺様の妃に迎えてやっても良いぞ?」
「絶対に嫌。そもそも、見た感じジャスティスはボクの倍くらい年齢があるよね? そんなおじさんの嫁になるぐらいなら死んだ方がマシ」
「ク、クハハハハッ! 良いな。益々気に入ったぞ」
「気に入られても迷惑。・・・・・・そう言えば、1つ聞いておきたいことがある」
「ほう、何だ?」
「ジャスティスはボク達と同じ『原罪』の適合者って訳じゃ無いよね? だって目の色が違うし。だったら、最初に出て来た時にドクターの名前を出してたし、ドクターに『アーマゲドン』由来の力を与えられたボクらの敵?」
そのストレートなアヤメの質問に、ジャスティスはニヤリと口角を吊り上げながら口を開く。
「如何にも。俺様はお前達の敵に相違ない。だが、だからと言ってドクターの仲間だよ言う訳でも無いのだがな」
「それは、どう言う事だ?」
訳の解らない言い分に、僕は思わず疑問の言葉を口にする。
すると、ジャスティスは僕にまるでアヤメとの会話を邪魔するなとでも言いたげな冷たいし視線を向けながら、再び口を開く。
「確かに俺様の力はドクターにより与えられた物だ。しかし、ドクターがこの力を俺様に与える上で出した条件は2つ。1つはドクターの邪魔をしないこと。そして2つ目はこの力を俺様の好きなように使うことだ」
「なっ!? そんな馬鹿げた条件が――」
「信じる信じないは勝手だが、どれだけ疑ったところで事実は変わらんぞ。そもそも、力により万人を統べようと考えている俺様が、人類の粛清などと言う馬鹿げた理想を掲げる『アーマゲドン』の意思に従うと思うか? 確かに、力の影響により常時より破壊衝動が増していることだけは認めよう。だが生憎、俺様はこの程度の呪いに屈するほどひ弱な精神をしてはいないものでな」
意味は分らないが、彼の言葉には一切の嘘を感じ取る事は出来なかった。
おそらく、ドクター・ケイオスは戦力としてジャスティスに力を与えながらもその行動を縛らず、与えた力で好きなように振る舞うよう命じたのは事実なのだろう。
では何故そのような意味の分らない行動に出るのか?
(リヴァイさんの話では、最初に生み出された使命だけを原動力に『アーマゲドン』の力は動いていて、その力を支配下に置く鍵は人間の強い願望や欲望と言った感情で『アーマゲドン』の力を染め上げることだ、って言ってた。それで生まれたのが僕らの『原罪』だとして、若しかしてドクター・ケイオスは再びジャスティスのような強い思念や使命、欲望を持った人間を使って僕らの『原罪』のような力を作り出そうとしている?)
現在の情報では僕の仮説を証明出来る物など何も無い。
若しかすれば、各地でジャスティスのような力を持った者を暴れさせることで、その力に対抗出来る僕ら『原罪』の適合者を分断し、各個撃破に繋げようという算段なのかも知れない。
「今は敵の思惑なんて気にする必要は無いんじゃない? さっさとこいつをやっつけて、その後でゆっくりドクターの思惑について皆で考えれば良いでしょ」
そのアヤメの言葉に、僕は「それもそうだね」と短く返事を返し、ジャスティスとの戦闘を始めるべく構えを取る。
「やれやれ、漸くくだらん問答は終りか? では、精々俺様を楽しませて見せろ!」
彼がそう告げた瞬間、その背に僕らが『原罪』の力を解き放った時のような、しかしそれとは明らかに違う金色の4枚羽が出現する。
そして次の瞬間、『炎神拳』で炎を纏わせた僕の右腕と、光り輝くオーラを纏ったジャスティスの右腕が激しくぶつかり、周囲の地面を抉るほどの激しい衝撃波が生じるのだった。
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